モナが今実習中で、一所懸命でいることをママは家にいてしっていました。いろいろなことにぶつかってもきっとモナはそれを乗り越えて自分のものにして、元気にもどってこれるということも知っていました。でもやっぱりママはモナのママですもの。どうしているかなあってずっと気がかりで、しょうがありませんでした。そうしているうちに、モナはパパのいうとおりまだ少し小さかったかななんてそんな気にもなってきていたのです。

 昨日、おうちに宅急便が届いたのです。宅急便ってとってもうれしいものですよね。中身がわかっていてもわからなくても・・昨日の宅急便はそういう意味で、あける前から特別わくわくするような贈り物だったのです。なぜって、宅急便の箱の上に貼ってある、送り主や受取人の名前が書かれた紙の品名のらんに「秋、もう秋です」と書いてあったのです。「秋、もう秋です」って名前のものっていったいなんでしょう?モナがここにいたら、「わぁ、なんだろう」ってきゃあきゃあ言って、それできっと中身のあてっこしたりしたところでした。

 モナの妹の、リサが「ママ?黒猫のマークの車って魔女の宅急便のこと?」と前にとまった車を見て、飛び込んできたので、「本当に、この宅急便は魔女の宅急便みたいにわくわくするおとどけものだったわとママも思いました。そして中身を見たとたん、やっぱり魔女の宅急便さんが届けてくれたのだって思ったのです。中身は大きな大きな、それはおいしそうな梨でした。モナの大好物の梨でした。

 モナがまだ、リサくらいに小さかったころのことです。いつも空を飛ぶことや、魔女になることばかりを考えていたモナはその日もママにこんなふうに言いました。「ねえ、ママ。魔女になるためにできることだたらなんだってしたいの。お風呂に入りながらとか、ぼんやりしているときにも、魔女になるために役にたつことをしたいの」

「あらまあ、お風呂はゆっくりはいればいいし、ぼんやりしているときはただぼんやりしたらいいのに・・」ママはそう思ったけれど、モナはどちらかというといつだってぼんやり、ぼぉっとしていることが多いので、そしてそういうときはいつだって空を飛ぶことなんかを考えているのだから、同じことかなと思ったのでした。

「モナ。今日はママの知っている魔法を特別におしえてあげるわ」「えぇー、本当?ママ、本当に魔法を知っているの?」

「ええ、そうよ。でもモナもたくさん魔法を知っているはずよ。ただ、それが魔法だって気がついていないだけなのよ」

モナはびっくりしたようでした。いつだって魔法が使えたらなあ、空を飛べたらなあ、魔女になれたらなあと思っていた、モナがもう魔法を知っているなんて、驚くのも無理のないことです。

 ママは冷蔵庫からよく冷えた大きな梨を取り出して、皮をむいて、くしがたに切って、お皿にならべてくれました。「モナ、この梨をいただいたら、どうなるかしら?」モナはママが何を言いたいのかなと思いました。「これを食べたら、すごくうれしくなる。おいしいから、幸せになる。それから元気になる」モナが言いました。

「ね、それだって、魔法なのよ。愛情のこもった梨には、人をうれしく、幸せに、元気にしてくれる魔法がはいっているの。それからモナの体の中にも、梨を元気に変える魔法があるのよ」「ママのお話、わかるけど、そんな魔法じゃないと思ったな」すごい魔法を期待していたモナはちょっぴりがっかりして、梨を食べました。ところがどうでしょう。梨には本当に魔法の力があったのでした。一口食べたときに、モナは急にまわりにたくさんの魔法があるということが、頭の中でよくわかったのです。「ママ、不思議なの。今、周りにある魔法がいくつもわかったの。あのね、モナ学校のおかいこさんのお当番だったでしょう。おかいこさんね、くわの葉っぱをいっぱいいっぱい食べてたの。それだけを食べていたの。それなのに、この間から、お口からいっぱい糸を出して、まゆを作っているの。ねえ、どうして葉っぱしか食べないのに、体の中に糸を持っているの?それって魔法よね。葉っぱをあんなにたくさんの糸に変えてしまうんだもの。そうだ、羊さんが作る毛糸だって、魔法よね。だってひつじさんはわらや干し草や草原の草を食べて、毛糸を作るんだもの。ね、ママ、梨もそう?梨の木はお水と土からもらったものだけで、こんなおいしい梨をつくる・・」

次々と魔法を発見しているモナをママはうれしそうに見ていました。モナの見つけた魔法の中にはママも気がつかなかった魔法がいくつもありました。

「ね、ママ、梨って、食べると元気になれる魔法を持っている。魔法には見える魔法と見えない魔法があるんだよね」

「当たり前の中に魔法がいっぱい。見つけられるか、見つけられないか、気がつくか、気がつかないか・・そのことは、ありがたいものの魔法につながっているのよ」ママは呪文のような不思議なことを言いました。

「ありがたいものの魔法ってなあに?」でもママは笑っているだけでした。モナはこれからぼおっとしながら「ありがたいものの魔法」について考えることにしたのでした。

 ママはモナはきっといい魔女になるわとそのとき思いました。今、魔女の修行の実習に行っているモナに梨が教えてくれた魔法を思い出してほしいなと思ったのです。それで、また魔女の宅急便で、「秋。もう秋です」の魔法がいっぱいつまった梨をモナたちに送ろうと思っています。だからモナはきっと大丈夫。ママがそう思えたのも、梨が持っていた魔法なのかもしれません。

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