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 犬と毎日一緒に暮らしたいとずっと思っていました。まるで恋でもしているように、そのことをずっと考えていて、夢見ていました。犬と暮らすことは簡単なことではないということは知っていたつもりです。どしゃぶりの日に、黒いゴミ袋で簡単なレインコートを作ってかぶせ、犬の首のところにガムテープをまいて、自分も真っ黒のレインコートを着て、お散歩をしているおばあさんを何度もみかけました。雪で足下が悪い日に、大きな犬にひっぱられ、ころびながらもお散歩しているおとうさんも知っています。私は力がないし、体力もないし、それから毎朝毎晩のお散歩の時間をきちんととるためには今の生活の時間の何かを少し削らなければむつかしいこともわかっていました。それでも私は犬と暮らしたかった
 どこかへ出かけるたびにペットショップで売られている子犬に会いに行きました。ああ、子犬ってなんて愛らしいのでしょう。このままつれて帰りたいという欲望がむくむくとわき起こるのを、(本当にちゃんとできるのか?)という理性が、衝動的につれて帰ろうするのをなんとかおさえていました。
 そんなに犬と一緒にいたいと思っていたのに、それでは具体的になんという種類の犬がいいかということは考えたことがありませんでした。あまり大きすぎる犬は力もあるだろうから無理だろうけど、可愛い目でじっと見つめてくれる犬といたい。それだったら、どんな種類でもそれから雑種といわれる犬だっていいなあと思っていました。
 ある日、買って帰ってきた犬の本に「あなたにぴったりの犬はどの種類の犬でしょう」というページを見つけました。その中で「小さい子にも力のないお年寄りにも飼いやすい犬です」という言葉が目に飛び込んできました。それがパピヨンという種類の犬でした。
「パピヨンという犬はとても友好的な性格で、人によくなつき、攻撃的になることが少ない。頭が良く、しつけも身につけやすい。身体が非常に丈夫で、毛を定期的にカットするなどの必要もない。無臭で、運動量も多くは必要でない。家の中で充分運動ができれば、外に毎日散歩に連れ出す必要もない。愛犬としての素晴らしさを全て兼ね備えた犬だ」そう本には書かれていました。私にとってそんな願ったりかなったりの犬が他にいるでしょうか?私はとくに、身体が非常に丈夫で、友好的な性格だというところに惹かれました。 それにパピヨンなら身体も小さいから、お散歩していて、車道に飛び出しそうになったとしても私にもきっととめられるでしょう。
 それから私はペットショップに並んでいるわんちゃんを見て、どれもこれも可愛くてならないけれど、それでもパピヨンに自然と目がいくようになったのでした。

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