ka i ro no ho te ru

 エジプトの朝日がのぼりました。やっぱりここ南国…ブーゲンビリアやハイビスカスや名前も知らないたくさんの花が咲き乱れています。通りずぎる人はみな「アッサラーム」「グッドモーニング」とあいさつをかわしてくれて、本当に気持ちのいい朝です。長さが3,40センチもあるような大きな豆がいくつもぶらさがっている木、葉っぱの形がおもしろいので、つけてある名札を見たら「camel foot」らくだの足と書かれていました。それから不思議な形の実をつけている木、一本の木にピンクや赤や白やさまざまな花をつけた木。木や花を見ているだけで、ここがやっぱり日本から遠く離れたところにあるのだなあととても楽しいのです。そうして歩いていると、門のわきに小さな番小屋のありました。そこの窓から顔を抱いている監視人さんも「アッサラーム」「グッドモーニング」とにっこり笑ってくれました。エジプトにきてから気がついたのだけどおでこに紫や黒っぽいあざを作っている人がとてもたくさんいて、この監視人さんもそうなのでした。そのあざは一日5回のお祈りをとても熱心にしていて、地面におでこをこすりつけていてできたあざだということがわかりました。中にはおでこに血をにじませている人もいて、あんなふうに何度も血をにじませているあいだにおでこにあざができちゃったのんだなと思いました。それで、そのあざは熱心にお祈りをしている証拠だから誇りなんだということもあとでハッサンさんに教えてもらってわかりました。
 ホテルのわきの小さな入り口の外の景色は中とはまったく違っていました。古いくずれかけた建物やごみや瓦礫の広がる土地があって、そこには一匹の黒い犬がいて、こちらを見ていました。いやに顔の長い耳のたった犬でした。おいでと呼ぶとこちらを振り返り、振り返りして少し近づいたかと思うと、またためらってとまり、思い直したように遠くへ行ってしまいました。なんだかひとりぼっちがとてもさびしげに見えました。「  」という絵本の犬をふと思い出しました。
 違う道をまた部屋の方へ戻ってくると途中にカラスがいました。日本のように真っ黒ではなくて、肩のところだけ白いシャツを着ているような白と黒のカラスでした。カケスかなと思ったけれど、泣き声も顔のかたちもそっくりだったからやっぱりカラスなんだと思います。そのあともこのカラスはいっぱいみたけどくろいカラスは見なかったので、これがエジプトのカラスということに私の中でしました。
 もっと歩いていると向こうのほうに小さな檻のようなものが見えて、なんとその中にラクダがいました。簡単な木の檻の中にいるラクダはとても可愛い顔をしていました。それがエジプトで最初にあったラクダでした。口をもごもごさせながらウンチをしました。「ウンチをしている!」動物がウンチをしていても口をもごもごさせていてもめずらしいように思ってうれしいのです。そこは動物園と呼ぶにはちょっと小さすぎるけれど、ダチョウやクジャクやヒツジもいてまたいちいちうれしく声をあげてしまうのでした。
 7時になったので、レストランに行きました。レストランの途中の池には2羽のフラミンゴがたぶん羽を切られて、そこにいました。一羽がこんくりーとの淵のところで、淵に向かってもうそれ以上前に進めないのに、何度も何度もすすもうとしていました。いったい何をしているのかな?おなかがすいているのかな?そんなふうに思っていたら、小林さん一家がやってきて、「さ、食事にいきましょう」といって下ったので、出かけました。
 レストランはバイキング方式でした。ハッサンさんが生水は飲まないで、それから生野菜もあまりたくさん食べないでと言っていたことを思い出しました。「エジプトが汚いのだとは思わないでください。水も生野菜も決して汚いわけではない。ただ長く住んでいないから慣れていないだけ。私建ちはぜんぜんOKです」私はハッサンさんが自分の国にとても誇りを持っているのを感じました。そして私建ちがアフリカやアジアの水を汚いということがやっぱりその国の人を傷つけているのだと思いました。
 ハッサンさんの言葉を思い出して、この旅行のあいだは生野菜と生水は食べたり飲んだりしないでおこうかなと思いました。せっかくの楽しい旅行をホテルで横になってすごすのはやっぱりもったいないと思ったのです。なぜって「私はエジプトに慣れていないから…」
 ホテルのレストランにはあふれるほどの食べ物がありました。飲み物だって何種類ものジュース、ミルク、お茶、コーヒー、水などがそろい、珍しい食べ物もたくさんありました。いちじくの甘辛煮、すごく色の濃い赤色のすいか・・名前も知らない果物や肉…
 私はそれらをおいしくいただきながら、そしてお散歩のときに見た、水をいっぱいにたたえたプールを思いながら、さっき見たばかりの乾いた街へ続く犬のいた景色を思いました。土ぼこりでただ一色になっている乾燥した街とこのホテルの中はまったく別の世界なのだと思いました。たぶん観光に来た人がこのホテルでたくさんのお金を使っていくことがエジプトにとってとても大切なことなのかもしれないから、そのことをどうこう言いたいわけではないのです。ただ私はこんなに大きなホテルに泊まり、中からほとんど出ないで、マイクロバスで移動しているから、きっと本当のエジプトの姿を知ることがないまま帰ってしまうのだなあと思いました。そんな私がこうして思ったことをかきつらねていくことはあまり意味のないことかもしれないけれど、でもやっぱり書きたいことはいっぱいあるからとまた思い直したのでした。
 食事が終わって少し時間があったので、いそいで2階の売店にはがきを買いに行きました。ポストカード4枚と切手まいであわせて9エジプトポンドでした。
 旅行前にメール友達で私のホームページ「たんぽぽの仲間たち」に、事故で頚椎を損傷したときのこと、お父様のこと、日常で感じることなどを「千代さんのページ」で書いてくれている千代ダビッドソンさん(ハンドルネーム)がこの旅行中にお誕生日を迎えられるということがありました。いつも私をはげましてくださって、それから私のお誕生日にもたくさんプレゼントを送ってくださったこともあって、私は千代さんに何かプレゼントを送りたいとメールを出したら、できたら旅先から一枚はがきを送ってほしいと言われていたのです。千代さんは「むつかしかったら無理はしないでね」と気を使ってくれたけれど、私はぜひ千代さんに、そして妹や父や母やそして私の家族にも旅行中にはがきを送りたいと思っていたのです。ピラミッドとラクダの絵葉書に「エジプトにいます。元気です。明日はケニアに行きます」「お誕生日おめでとうございます」などと書きました。私は本当にいろいろなことができなくて、それから互角もとてもとても苦手なので、旅行前には手紙がちゃんと出せるのかどうかすごく寸パイでした。でもはがきを持っていって、スタンプを貼るしぐさをして「ハウマッチ?」って言うだけで、親切な男の店員さんが「ポストオフィースはフロントのそばにあるよ」と教えてくれました。フロントのそばではがきを書いてぼおっとしていたら、今度はまた違うホテルの人がポストはこっちこっちとわざわざ目の前までつれていってくれました。「サンキュー」とお辞儀をするとその方は私よりももっともっと深くお辞儀をして、手を前であわせて「ユアウェルカム」とお返事してくれました。言葉は通じなくても気持ちがあれば通じ合えることっていっぱいあるんだと旅で最初に思ったのはこのときでした。
 

ahurika he