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アフリカ行きの飛行機は大阪の関西空港から飛び立つことになっていました。今回小松からいっしょに行くことになっていた友人の大谷さんがとってくれた列車は22日の朝7時25分発。
講演会の時に列車で出かけるときはたいてい、駅の近くの有料駐車場に車を停めておくのだけれど、今回は8日間も留守にするし、大きなスーツケースもいっしょだし、朝早いから前の日にタクシー会社に予約の電話をしました。小さいことだけれど私にとってはこんなことも、一大事なのです。私は本当に、誰かといつも何かおしゃべりしていてもすぐにとんちんかんなことになってしまうから、初めてのことにはとても臆病だし、タクシーをお願いする電話もすごくどきどきしました。「明日の朝のタクシーの予約をもうできますか?駅に行ってほしいのですけど」すると電話のむこうのかたが「何時にうかがいますか?」と聞きました。「あれ?」当たり前のことなのに、列車の発車時刻しか頭になくて、何時に家に来てもらったらいいのかなんて少しも考えていなかったし、いったい家から駅までどれくらいかかるのかもとっさわからず黙ってしまいました。少しの沈黙にとてもあせってしまったけれど、タクシーの運転手さんはとてもなれているのでしょうか?すぐに状況をわかってくださって「何時の列車に乗るの?それわかる?何時ごろのどこ行きの列車?あ、7時25分ね。スーパー雷鳥でしょう?だったら余裕を持って6時45分に行きますからね。待っていてください」「ありがとうございます」と電話を切ってほっとしました。みんなやさしくてなんとかなるもの・・だけど、今回の旅行でも、ほとんど英語もそしてエジプトやケニアの言葉も何もわからないのに、きっといろいろな人に話し掛けて、お話するんだと思っていたはずなのに、まだ日本にいて、相手の方が日本人なのに、こんなにどきどきして、失敗しそうになるんだもの、やっぱり言葉が通じない人たちとは気持ちが通じ合えないと元気がなくなってしまうのでした。だけど、結果的にタクシーはちゃんと頼めたわけだから・・やっぱり私ってすごいじゃない・・(今から思うともちろんぜんぜんすごくないけど)と思い直して元気になりました。私ってとても現金です。
 その晩もいつものように私のホームページの日記の部分の更新をしました。「アフリカに行ってきます。元気に楽しく帰ってきます。ホームページを作ってもう3年、長くても二日以上はお休みしたことがなかったので、それが不安です。こうして日記を書いて、メールをいただいてお返事をかくことが心の支えのようになっていたのだなあといまさらながら思いました。ありがとう。そして8日間お返事を出せなくてごめんなさい。掲示板にはアフリカに行ってるときも来てくださいね」と書きました。メールを開くと「アフリカ旅行楽しんできてね」「ライオンが好きでもそばにいっちゃだめよ」「おなかこわさないでね」「ドジしないようにね」とうれしくてありがたいメールをたくさんいただきました。お返事を書いて、パソコンのふたをぱたんと閉じたら、たった八日間なのに、つながっているたくさんのお友達のとの魔法の扉がギーと音をたてて光を中に閉じ込めてしまってしまったみたいで少しさびしい気持ちがしました。
 小さい小学生が遠足の前の日に眠れないみたいに、私もやっぱり眠れないのでした。そして朝がやってきました。スーツケースがとても重いから、約束の6時45分よりも早い6時半に玄関にスーツケースを出したら、もうそこにタクシーが停まっていました。大変、早くきてくださったんだ・・あわてて小さな手持ちのかばんを取りに行き、そしてずっと迷っていた大好きなうさぎのぬいぐるみを抱きました。荷物になるし、私にとって大事だからなくなっちゃうと困るからずいぶん迷ったけど「やっぱりつれていく!ぴょんすけもアフリカ行きたいよね」思いついて、うさぎの腰にリボンをくくってその先をかばんに結びました。こうしておけば、もし抱いていないときも、絶対になくさないから・・
 いそいで外に出て、こんなにあわただしく出発したら何か忘れ物しそうだなと心配になったけどタクシーに乗りました。
 私は少し人見知りをしてしまうのかもしれません。タクシーの運転手さんとお話が上手にできるか心配になるし、たとえば美容院でもやっぱりいろいろ話かけてくださるとうまく答えられるかなとどきどきします。「きみは何をする人?」「どんなふうに切ろうか」とそんな簡単な質問すらなかなか上手に自分の気持ちを言えません。それでたいてい髪は友達に切ってもらったり、いつも同じ美容院に行って、「あ、セットなんてしなくて大丈夫です」とあわてて帰ってきてしまったりもするのです。でも本当は、仲良しになれたりするから、おしゃべりもだんだんととても楽しくなってきているのですけれど、タクシーに一人で乗るのが苦手でした。
 そういうことで、タクシーの運転手さんが「どこへ行くの?」と聞いてくれたときも「小松駅です」と短く答えることしかできませんでした。そうだね、電話で聞いたから知ってるよ」運転手さんはどうやら電話にでてくれた人だったようでした。「その先だよ」「あ、大阪の飛行場です」「あはは、、お客さんおもしろなあ・・大きなかばんだからね、どこか外国に行くのかな思って・・」「あ、ごめんなさい。アフリカです」「え?アフリカ。いいねえ、象もいるかな?おじさんもいつか行けたら行ってみたいなあ」「何時間かかるの?ううん、大丈夫知らなくてもいいさ、飛行機がちゃんと運んでくれるんだから…そうだよ。ついたときが着いたときだよ」「食べ物に気をつけなくちゃいけないよ」「何日行くの?八日間?帰りは駅に何時につくの?おじさんの勤務表はどうなっていたかな?おじさんまた駅まで迎えに出てあげるよ」タクシーの運転手さんはそれはそれは親切な人でした。帰りの電車の時刻はやっぱり私の頭の中に入っていなくて、帰りのことはいえなかったけれど、なんでも苦手って言っていたらこんなにやさしい人とも会えないんだなあと思いました。
 駅の前にはもう前の学校の同僚で、子供たちの作品展をするときに作品を入れる額を作ってくださったり、「たんぽぽの仲間たち」(三五館)や「さびしいときは心のかぜです」(樹心社)などの最初のころの私の本の発行のきっかけや原稿のもとになった私の毎日の学級通信を冊子の形に手作りで作ってくださったイラストレーターで写真家でもある大谷さんが来ていました。いろいろな場面でいつも大きな力を貸してくださる大谷さんが今回のアフリカ旅行でも一緒なのはとても心強いことです。
 私は大谷さんに会えたら、一人で荷物を作って小松駅まで持ってくるという偉業をなしとげたんだなあと思ってもうほっとして力が抜けてあとは大丈夫と思ってしまいそうになりました。県外の講演会のときにいつも静岡から来てくださって、いつもお世話をおかけしてばかりの小林さんや大田にさんに頼ってしまって自分はボーっとしてしまっているのが私の悪いくせです。今回はできることはちゃんと自分でしてできるだけ迷惑をかけないようにがんばる・・ぴょんすけを手でぎゅっと抱きしめて思いました。
 けれどデパートで買ったスーツケースはあまりにも大きくて重く、小松駅の3番線につながる階段を自分で持って降りようとしたら、身体ごと階段の下へ落ちていきそうになってあわてました。「何しようとしてるの?」という大谷さんのやさしい声に、結局は最初からお世話をかけてしまうのでした。
 スーツケースの宅配があるから3日前に出すと関空へ届けてくれるよと小林さんからは教えていただいていたのだけど、最後まで荷物を入れたり出したりしていた私とそして前日になって荷物を用意したという大谷さんは結局自分でスーツケースを引きずりながら大阪へ向かうことになったのでした。
 スーパー雷鳥は京都で関空行きの「はるか」に乗り換えでした。乗換え時間はなんとたったの10分。そんな神業を小林さんや大谷さんはいつも何ということもなくこなしてしまうのでした。京都駅にはうれしいことにエスカレータがあって、スーツケースもどうにか自分で移動させられました。エスカレーターを降りると、そのむこうに小林さんと小林さんの奥さまのあいこさんと娘さんの愛美ちゃんと、ツアーに静岡から参加される奥村さんと堀さんご夫妻と一緒になりました。
 みんな私のぴょんすけが珍しいのか、かばんにくくりつけてあるぴょんすけの耳をむすぼうとしたり、「ひげをきっちゃおうか・・」という声がしたので、私は気が気ではなくて、あわててぴょんすけをかばんに押し込みました。
 「はるか」は関西空港行きの列車だから大きなスーツケースを入れておく棚のようなものまで列車の乗り口のところについていて、何もかもがめずらしくてうれしいのです。「はるか」は両側の窓の外に海が広がるなか走っていきました。海はとても青く、空もまた青く、アフリカの空もこんなかしらともう心はアフリカなのでした。関空は海の中に人口の島を作ってそこを飛行場にしたということでした。
 関西空国の中で、ツアーのメンバー15人がそろいました。「みんな大好きツアー」"山元加津子といくケニア、エジプトの旅"そんな名前のツアーに応募して一緒に行こうと言ってくださる方なんていったいおられるかしら?とお会いするまで心配だったけれど、北海道や大阪や東京からこられたかたの中には講演会に来てくださってお顔を覚えている方もいて、楽しい旅の仲間がそろいました。
 小林さんはツアーコンダクターを今回されるからとてもいそがしそうでした。私はますます迷惑をかけないようにしなくちゃと心に誓いました。すごく大きなとてもりっぱなカメラを持ってこられた大谷さんや、小林さんやあいこさんは海外旅行中に何かあったときに保障してもらえる保険に入ったり、私ははじめてのものをきょろきょろながめたり、時間はたっぷりあるようでも、でもなんとなくいそがしいのです。
 小林さんに「とりあえずお金をアメリカドルに替えていて・・一ドルをたくさんにしてね」と言われてもいったいいくらぐらいあれば困らないのかわかりません。そんな私の気持ちをすぐに小林さんはわかってくださって「じゃあね、とりあえず、10万円ドルに替えて、あまったら僕が買い取ります。よく海外へ出かけるからどうぜ使うから大丈夫。銀行で替えるとまた手数料とられちゃうから・・」どこまでもやさしい小林さんです。結局旅が終わった後は、550ドル余っていました。こちらの旅行会社の方から少し説明がありました。入国手続きの用紙を日本で手に入るものはもう書いて今渡してくれるけれど、手に入らないものは飛行機の中で渡してもらえるということ、エジプト航空は宗教上の理由から中でお酒を出せないから、出発前の今、赤と白の一本ずつ、合計2本の小さいワインを渡すので、もって入ってほしいということ。このワインは旅行会社が用意してくれたということ。今回はツアーコンダクターを小林さんがされてるけれど、現地のガイドさんが向こうで待っていてくださるということ。ワインはお酒を飲めないのでどうしようかなと思ったけれど、たくさん飲みたかったり、向こうで飲みたい方もいらっしゃるかなといただいたのでした。それでアラブの人はお酒を飲まれないのか?それとも飛行機の中では飲まないのか?それとも特別の日でないと飲まないのか?不思議なことですぐに頭がいいっぱいになってしまう私はもう???で頭がいっぱいなのでした。
 発車口まではモノレールのようなきれいな乗り物に2分くらいだけのりました。ガラスの部分が大きくて未来の乗り物みたい・・もうはじめてのことは何だってうれしいのです。
 入国手続きをすませ、朝から何も食べていなかったので、カレーライスを少しいそいで食べました。そしてとうとうエジプト空港の飛行機に乗り込みました。いったい何時間乗っているのかも知らなくて、時間をもてあまさないようにスケッチブックと本を何冊か手持ちのかばんに入れてありました。持ってきた本は下川祐治さんの「アジアの友人」、蔵前仁一さんの「旅で眠りたい」、大槻ケンヂさんの「オーケンののほほんと熱い国へ行く」そしてドナ・ウイリアムズさんの「自閉症だったわたしへ」、それから赤川次郎さんの「ふたり」。最初の三つは旅行気分をいっぱい味わいたかったから、「自閉症だったわたしへ」はハードカバーで持っているのだけど文庫本になっているのを見て思わず買ってしまったもので、それから「ふたり」はおととしの高校生の図書館大会の課題図書だったのだけど講師として参加していながら他のグループにいて、読んでいなかったから、読んでみようかなと思ったから…
 飛行機の中はほとんどが日本人だったけれど、飛び立つまで流れる音楽はアラブ音楽で、イヤホーンを通して流れる音楽もやっぱりアラブの音楽で、前の席の背もたれに書かれた文字もアラビア語で、飛行機の中ってもうどこの国かわからない不思議な空間ですね。
 飛行機の中に備え付けてあるテレビには映画やどこかの風景のあいまに、ときどき地図があらわれて、今どのあたりを飛んでいるのか表示されます。それから高度や飛行機の高さ、到着までの時間やエジプトの現地時間や、エジプトの気温なんかも表示されていてとてわかりやすいのです。日本の国内線の飛行機もこんなふうにしてくれるといいのにな。ところで到着時間まではなんと12時間、アフリカとの時差は6時間だということがわかりました。どこへ行くともたえずバッグのなかには本が入っていないと安心できないくらい本好きの私。6時間たったところで、本をもう2冊読んでしまっていたので、8日間の旅行をあと3冊の本ですごせるのか心配になったので、本を読むのをやめて原稿を書くことにしました。今回の旅行では、イラストや写真も載せたいなあと思いました。私、下手なくせに絵を描いたり写真をとるのが大好きです。でも今度の旅はイラストや写真がとても上手な大谷さんも一緒です。二人とも一緒に仕事をしていたときから、何かを作るのが大好き。大谷さんは私の小冊子の装丁から、印刷から製本まですべてをしてくださったし、それから私は私で絵本をつくったり、絵日記みたいのを描くのが楽しくてしかたがないし、すごく楽しみながら一緒にアフリカ旅行記を作ってみようと相談しました。出版社からきちんとした本の形で出していただけるかはまた別の問題。とにかく昔みたいに本をつくろうと思ったらもう楽しくてしかたがないのです。大谷さんの素敵な写真と絵、私のつたないけれど興味しんしんで描いた絵と、写真そして文字をかきつらねて、どうにかおもしろくて気持ちがいっぱいあふれた本にしよう…もちろんたった8日間の旅ではエジプトとケニアについて語れるはずもないけれど、でも私の感じたこと、私が見たこと、私が経験したこと、私が不思議に思ったこと、そして大谷さんが写真や絵できりとったエジプトとケニアだったら私たちにも本は作れるかもしれません。今までの私の本だって、いつも私が感じたことをかきつらねただけだからたびんおんなじ。
 私が描きたくても絵の力がなくて描けなかったところを「ねえ、あの絵描いてほしいの」とお願いして、描いてもらったりしたので、だから絵は二人のごちゃまぜです。絵にくっついているらくがきの文字はほとんどが私でたまには大谷さんです。絵、写真、文字、どれが大谷さんでどれが私か…ひとつひとつには描いていなくてきっと、最後まで読んでくださったらだんだんとわかるかもしれません。上手なのが大谷さん、簡単なのが私です。
 2度の機内食と2度のお茶…12時間のフライトが終わってエジプトについたのはエジプト時間で8時、日本時間では夜中の2時です。ついさっきまで明るかった空がもう真っ暗になっていました。
 飛行機を降りると国独特の空気のにおいがするとよく聞きます。エジプトは南国フルーツの香りがするのだと…。実際に韓国のキンポ空港では確かに空気がキムチのにおいだと感じたのです。でも私にはエジプト特有のにおいは感じられませんでした。ただずっと上空の空気が冷たかったから、エジプトの空気は温かく乾いていて、そして見上げた半月がとても美しかったです。 

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