『そんな筈ない』



「…ちょっと早すぎたかしら?」
 腕時計の時間が本当に正しいかどうか確認するため、ビルの壁にしつらえて
あるデジタル時計に目をやった私を待っていたかのように、4つの数字がパタ
パタと変わる。
 まこちゃんとの待ち合わせ時間までにはあと1時間。
 早く出てきたのにはちゃんとした訳がある。待ち合わせの前に買っておきた
いものもあったし、ここ数日の間に出た本の類にも目を通しておきたかったの
も理由の一つ。
 でも一番の理由は…まこちゃんを待たせるようなことはしたくない。そうい
う事。
(いつも待たせちゃって、なんか悪いなぁ)
──ううん、こうやって待ってる時間も楽しいのよ。
 いくらそう説明しても、まこちゃんはいつもすまなそうに遅れた事を謝る。
私が時間より早く来ているだけで、彼女が約束に遅れた事は一度だってないの
に。
 そんなこんなを繰り返すうち、いつの間にかまこちゃんも待ち合わせの時間
よりかなり前に来るようになり、私は私でそんな彼女を待たせたくはないから
いつもより早く家を出て…それにしたって1時間は早すぎたかしら?
 結局のところ、最近まこちゃんと私は待ち合わせ時間の2〜30分前には落
ち合うようになっていたけど、それから考えてもこの時間はまだ幾らかの余裕
がある。
 どこかで休もうかしら?
 買ったばかりの本もあるからこのまま外で待ってても良いのだけど、今日の
日差しはかなり強め。2時間も外にいたらかなり日に焼けてしまうわね。
 そう考えて私は近くの喫茶店に入り、外の様子がよく見える2階の窓際の席
に腰をおろして紅茶を注文した。
 そう言えば…この喫茶店は前にも入った事がある。ちびうさちゃんがこちら
の世界に来てしばらくたった頃のこと。
 あの時は外を歩いていたら急に雨に降られたので雨宿りついでに寄ったのだ
けど、その後すぐにまこちゃんがやっぱり雨宿りしに入ってきたんだっけ。
 約束も何もない偶然の出会い。いつも学校で会うときと違いお互い私服。
 まだ自分の気持ちをはっきりとまこちゃんに伝えていなかったあの頃の私は、
思いがけない二人っきりの時間に間が保たなくて、つい持っていた参考書を開
いて勉強を始めてしまったのよね。
 きっとまこちゃんは変な娘だなぁって思ったことだろう。
 けど、それも今となっては昔の話だ。
(偶然って不思議ね────)
 あの時そう言ったのは誰だっただろう?
(やっぱりあたしたち気が合うのよ)
 しばらくしてお店に入ってきた美奈子ちゃんとレイちゃん。
「気が合う」「あたしたち」という言葉に私は嬉しさを感じたのを覚えている。
 そして今では────
(うんっ、それじゃあ今度の日曜にいつもの場所でね)
 そう、今では偶然に頼らなくったって会いたい時に会えるんだ。
 あと1時間。まこちゃん、早くこないかな…。
「お待たせしました。ご注文は以上でよろしいですか?」
「あっ! はい、結構です。ありがとうございます」
 びっくりした。いきなり来るんだもの。でもあの店員さん、いま去りぎわに
私の方を見て笑ったような……やだっ、もしかして私、まこちゃんのこと考え
ながら変ににやけたりしてなかったかしら?
 カップを口に運びながらそっと辺りの様子をうかがってみる。良かった、ど
うやら他には誰もこっちを見てなかったみたい。
 ふふっ、でも考えてみれば不思議だわ。私がこうして喫茶店で紅茶を飲みな
がら誰かを待っているなんて。
 ……あら?
 再び外に視線を移した私の目の端に、一瞬見慣れた人影が映ったような気が
した。今は信号が変わって車の陰に隠れちゃってるけど、あそこの横断歩道の
とこにいたのは……もしかしてまこちゃん? 
 一瞬だけどポニーテールが見えたし服の色も彼女が好みそうな感じ。でも隣
に誰かいたようだったし、それにまだ時間は早いはず……。
 私が見ているうちにまた信号が変わった。車の流れが停まり、横断歩道を人
が渡りはじめる。
 いた! やっぱりあれはまこちゃん。
 でも隣に一緒いるのは……美奈子ちゃん?
 二人でこっちに歩いてくる。
「!」
 私は思わず身を縮こまらせた。でも美奈子ちゃんが話しかけているらしく、
まこちゃんは彼女の方を向いて何やら楽しげに頷いている。どちらも私がここ
にいることには全く気付いていないようだ。
 私はこころもち窓から体を離すようにしながらその姿を目で追った。二人と
も相変わらず何か話しながら喫茶店の前を通り過ぎていく。
 こうしちゃいられないわ!
 私は飲みかけの紅茶をそのままに伝票とハンドバッグを手に取った。急いで
お金を払って店を出る。でもその時にはもう二人の姿はどこにも見えなかった。
 二人ともどこに行ったんだろう? それよりも、どうしてまこちゃんと美奈
子ちゃんが一緒にいるんだろう?
(…………べ、別にまこちゃんと美奈子ちゃんが一緒にいるのがいけないって
訳じゃないのよ、うん)
 自分自身にそう弁解してみても、頬のあたりが熱くなるのを止める事はでき
なかった。なにしろまこちゃんと二人きりだというのが当然のように思ってい
たからで……あぁっ、何だかとても恥ずかしいわ。
 今日はまこちゃんと二人だけのつもりでいたけれど、それは思いこみに過ぎ
ず本当は他のみんなも一緒なのかもしれない。
 でも……みんな一緒という事なら別に構わないけどあるいは……まこちゃん、
私との約束を忘れちゃったんだろうか?
 そんな筈ない……きっと。
 二人の姿が見えないので、とりあえず彼女達が行った方向に向けて歩き出す
ことにする。
 ……忘れちゃったのかなぁ。
 確かに約束を交わしたのは4日も前のこと。私はそれっきり安心して、その
あと今日のことについて話す事は無かったのだけど、もしまこちゃんが忘れて
いれば後日、美奈子ちゃんと別の約束をしたという事も可能性としては考えら
れる。
 私は今日をとても楽しみにしていたけど、まこちゃんにとってはそうではな
い、忘れてしまえる程度のものだったとしたら……。
 まこちゃんなら私と違って誘う人は沢山いるだろうし、例えば美奈子ちゃん
から「かっこいいお兄さんがいるブティック」とかに一緒に行こうって言われ
たら……行っちゃうかな。それもまこちゃんらしいと言えばらしいんだけど。
「あ」
 いた。まこちゃんと美奈子ちゃん。
 私は慌てて建物の陰に身を隠した。
 何のお店はここの位置からではよく分からないけど、二人とも中には入らず
熱心にのぞき込んでいる様子。どうも予想した通りかもしれない。
──ほらほら、まこちゃんあの人よあの人、ね、いー男でしょう。
 って美奈子ちゃんの台詞が聞こえてくるようだわ。
 約束の時間までにはまだ間があるし、二人で時間を潰しているだけならいい
んだけど……って、あら? 男の人が二人……あ、まこちゃん達に声かけてる。
道を尋ねている訳ではなさそう……これってもしかしてナンパ? 
 何を話してるんだろう? ここからじゃ遠すぎて分からない。でもさすがに
美奈子ちゃんね。応対が慣れてるわ。
 まこちゃんは何も喋ってないみたいだけど……もしかするとあの二人のうち
のどちらかが先輩に似た人で見とれているのかも。
 …あ、4人でどこか行こうとしてる。
 ど、どうしよう?
「あ〜みちゃんっ!」
「きゃっっ!」「わっ、なっ、なんなのよ?」
 突然背後から肩を叩かれて、私は思わず声をあげてしまった。振り向けばそ
こには私の声に驚いたのか、ちょっと逃げ腰のレイちゃんがいた。
「どうしたの? レイちゃん」
「…それはこっちが聞きたいわよ。こんな所でなにしてるの亜美ちゃん?」
「それは…」
 レイちゃんに聞き返されて私は言葉に詰まった。
 私のしてた事って……今にして思えばこれは「覗き」という類のものではな
かっただろうか?
 なんて事かしら。これではうさぎちゃん達の事をとやかく言えないわ。
「向こうに何かあるの?」
「え、あ…」
 私が考え込んでいる隙にレイちゃんがひょいと向こうをのぞき見る。つられ
て私も顔を出すと、ちょうど4人が歩き出すところだった。
 どこへ行くんだろう?
「あれ、まこちゃんと美奈子ちゃんよね」
 私はレイちゃんの方を見てこくりと頷いた。
「で、亜美ちゃんがここにいるって事は……浮気調査?」
「そ、そんなんじゃ…」
「ふうーーーーーん」
「れ、レイちゃんっ」
 なんだか全てを見透かしているような微笑に、私はまた頬が熱くなるのを感
じた。
 浮気だなんて。私とまこちゃんは……………だから、あの、その。
 そ、そうよ、そんな事よりもレイちゃんに1つ確かめないと。
「レイちゃん、今日はみんなで会う約束だったかしら?」
「ううん。そんな話は聞いてないけど。だから亜美ちゃんを見かけたのもほん
とに偶然。でもどうして?」
「な、何でもないの。御免なさい、いきなり変なこと聞いて」
 私の思い違いじゃなかった。それじゃあやっぱり……。
「…ね、ちょっと付き合わない? ちょうど一人で退屈してたところなのよ」
「ええ、でも…」
「向こうは向こうで楽しんでればいーじゃない。それとも亜美ちゃん何か用事
でもあったの?」
「それは……あると言えばあったんだけど…」
 時計を見る。約束の時間にはまだなっていない。でも今さらそんな事を気に
したって仕方ないのかもしれない。
「まこちゃんなのね?」
 レイちゃんの言葉にどう答えようか逡巡した私は、結局観念して頷いた。
 やっぱり見透かされてるわ。
「そっか…………んー、まこちゃんにも困ったものねぇ」
 頷いた私を見てレイちゃんが小さく鼻をならす。きっと呆れているんだろう。
「まぁ、とりあえず喫茶店にでも入らない? あたしのおごりで。このままこ
こにいたって暑いだけだしさ」
「え、ええ」
 レイちゃんに肩を押されて私はしぶしぶ歩き出した。そうして一番近い、そ
う、ついさっきまでいた喫茶店にもう一度入ることとなった。
「遠慮せずに好きなもの頼んでいいわよ。うさぎじゃないけど、こんな時は食
べるに限るわ。ほらほら、ピザがいい? それともオムライス?」
 その言葉に甘えて私はサンドイッチとアイスティーを注文。レイちゃんは自
身はクリームソーダを頼んだ。
 それはそうと、なんでここでうさぎちゃんが引き合いに出るんだろう? こ
んな時って何の事かしら?
 程なくして注文したものが運ばれてきた。待っている間も今もレイちゃんは
一言も喋らず、なんだか私の様子をじっと観察しているみたい。
 なんとなく間がもたないので今きたばかりのアイスティーを口にする。喉が
乾いていた訳ではないけど、よく冷えた紅茶は思いの外おいしかった。
「……それで」
 私が一息ついたのを見計らって、レイちゃんがぽつりと喋りだす。
「まこちゃんとはいつからうまくいってないの?」
「ええっ?」
 神妙な面もちからいきなり切り出された問に、私は手にしていたグラスを落
としそうになった。
 やっと分かったわ。なんでさっきレイちゃんがうさぎちゃんの事を持ち出し
たか。そういえば以前、うさぎちゃんと衛さんの関係がぎくしゃくしていた頃
があったっけ。
「あの、うまくいってないとかそういうんじゃないの。ただ今日はまこちゃん
と会う約束をしていたんだけど……さっき見たでしょう?」
「美奈子ちゃんと二人でナンパされてたわね」
「うん。それでちょっと……」
「ブルー入ってたの? 本当にそれだけ? まこちゃんがいー男に弱いのは今
に始まった話じゃないでしょ。間違えてたら悪いけど、亜美ちゃんはまこちゃ
んのそーいう部分もひっくるめて好きなんじゃないの?」
「それはそうよ……あ!」
 今のは誘導尋問。
 思わず口元に手をあてた私を見て、レイちゃんがくすりと笑う。
「ま、それはいいとして。じゃあどうしてさっき、あんなに寂しそうな顔して
たの?」
「……そんなに寂しそうだった?」
「人混みで親とはぐれた子供みたいだったわ」
「そう……そうね、うん」
 確かにレイちゃんの言う通りかもしれない。
 私はまこちゃんが好きだけど、その事でまこちゃんを縛りたくない。だから
まこちゃんが他の誰かを好きでも構わない。ただ────
「今日は約束してたの。けど忘れられたかもしれない。それが寂しいの。そん
な筈ないって思ってたけど……」
 寂しいのは孤独。悲しいのは必要とされないこと。
「そんな筈はない……か。亜美ちゃん変わったね」
「え?」
「以前の亜美ちゃんだったら、こと対人関係でそんな自信ありげなもの言いっ
てしなかったんじゃないかしら?」
「自信ありげ…って、そんなの全然ないわ」
「そう? でもまだまこちゃんのこと信じてるんでしょ?」
「それは…」
 ちらっと時計に目を走らせる。約束の時間まではあと数分。
 心のどこかで私はまだまこちゃんが来ることを信じている。信じているから
時間が気にかかる。ううん、たとえ時間が過ぎても私は待つだろう。
 レイちゃんに言われて初めて気付いたけれど、自分でも不思議なくらい諦め
て帰ろうという気持ちは湧いてこなかった。
「……ええ、信じているわ」
「なんだか妬けるわね」
 レイちゃんが喉の奥でくっくっと小さく笑った。
「それじゃあ後ろを見てごらんなさい」
 え?
 かすかな期待に体が震える。
 早く、とばかりにレイちゃんが顎をしゃくる。
 ゆっくりと息を吸いながら振り返る。
「…まこちゃん」
 そこにはまこちゃんがいた。そして後ろには美奈子ちゃん。二人とも私より
も先にこっちに気付いていたらしく、視線が合うとそれに応えるように手をあ
げる。
 あれ? でも何だろう? まこちゃん何だか元気がないみたい。
 くっくっくっくっ。
 レイちゃんがおかしくってたまらないという感じで笑い、二人を手招きする。
「はぁーい、レイちゃん亜美ちゃん」「やぁ、亜美ちゃん……レイちゃん」
 二人が座りやすいように私とレイちゃんが腰をずらすと、美奈子ちゃんは当
然とばかりにレイちゃんの横に座った。でもまこちゃんは立ったまま、じっと
レイちゃんを見ている。
「どうしたのまこちゃん。好物を横取りされた子供みたいな顔して?」
「…レイちゃん、今日ってみんなで会う約束だったっけ?」
 この質問って……私がレイちゃんにしたのと同じ。それじゃまこちゃん、も
しかして…。
「ううん、亜美ちゃんとデート。だから邪魔しないでね」
『レイちゃん!』
 私とまこちゃんの声がハモった。
        ☆         ☆         ☆
 
 結局のところまこちゃんが美奈子ちゃんに会ったのも偶然で、そのあと約束
の時間近くになっても私が来ないのでこの喫茶店を覗いたら、レイちゃんと一
緒にいたんでびっくりしたみたい。
「まこちゃんてば、これから男の子達におごらせちゃおうってとこで急に『亜
美ちゃんと約束しているから』って行っちゃうんだもん」
「だってあれは美奈子ちゃんが勝手に話をまとめちゃったんじゃないか」
「大体なんで最初に美奈子ちゃんと会った時にほいほいついてったのよ」
「それは…」
「少し先のブティックにかっこいい人がいるって言ったら、喜んでついてきた
わよねーまこちゃん」
「うー」
 レイちゃんと美奈子ちゃんたら、まこちゃんをからかって楽しんでる。
「レイちゃん美奈子ちゃん、もうそれくらいにしてあげたら?」
「あら? 亜美ちゃんは許しちゃっていいの?」
 こちらを見る美奈子ちゃんとレイちゃんの目が笑っている。
 あ……何かいま思いっきりやぶ蛇な予感。
「いいのよねー亜美ちゃん。なんたって亜美ちゃんは、そういう部分もひっく
るめてまこちゃんの事が────」
「わーっレイちゃん、駄目駄目駄目駄目っ!」
 さっきはうっかり口を滑らしちゃったけど、そういう事を本人のいる目の前
で喋らないで!
「えー? なになになに? あら、亜美ちゃん顔がまっ赤よ」
 あーん、やっぱり矛先がこっちに向いちゃったわ。
「よしなよ二人とも」
 まこちゃんが二人をとめに入る。なんだかちょっと怒ってるみたい。
「まこちゃんも亜美ちゃんと待ち合わせしてるんだったら、先にそう言ってく
れればいいのに。別にあたし、二人の邪魔をしようだなんて思ってないわよ」
「してるじゃない、今」
 再びからかいの矛先を変えようとした美奈子ちゃんに対し、まこちゃんの声
はやっぱり少し怒りぎみ。
「あ、それもそーね。それじゃあレイちゃん、ここは若い二人にお任せして」
「私達は去りますか。じゃね、亜美ちゃんまこちゃん」
「あ、レイちゃん、美奈子ちゃん……」
 呼び止める間もなく二人は出ていった。まこちゃんがやれやれといった感じ
で溜息をつき、私の向かいへと席を移す。
「まこちゃん、レイちゃん達は…」
「分かってるよ。ごめんね亜美ちゃん…あたしちょっとレイちゃんに嫉妬して
るみたいだ」
「まこちゃん……」
「さっき私達に気付く前、亜美ちゃんレイちゃんに何か相談してただろ? そ
れ見たときにさ、亜美ちゃんがあたしと今日会うって約束を忘れちゃったんじ
ゃないかって思ったんだ。ううん、何か相談事があったけど、あたしじゃ役に
立たないからレイちゃんを選んだんじゃないかって」
 寂しいのは孤独。悲しいのは必要とされないこと。
 私が抱いた気持ち。まこちゃんも同じなのね。
「でも、まこちゃんは今ここにいるわ」
「うん……亜美ちゃんとレイちゃんが一緒にいるのを見て少しショックだった
けど、気付かれる前に帰ろうなんて思わなかった。なんて言うか…あたしの自
惚れじゃなきゃいいんだけど、そんな筈ないって思ったから…」
 そんな筈ない、か。
「信じてくれたのね、私のこと」
「亜美ちゃん……」
「ありがとう、とても嬉しいわ。これからも信じさせてね、まこちゃんの事」
「うん、頑張るよ。…あたしも亜美ちゃんのこと信じ続けていいよね」
「ええ、勿論よ」
 私達はどちらからともなく微笑みあう。さっきまでの寂しさが嘘のように消
えていった。
「亜美ちゃん、今日はこれからどうしようか? 最初の予定通りにいく?」
「そうね、せっかくだからレイちゃんと美奈子ちゃんも誘わない? まだ遠く
には行ってないと思うけど」
「そうだね。でも探す必要はないと思うよ。あたしの勘だとあっちの柱の陰に
二人とも隠れてそうな気がするんだけどな」
 そうね、あの二人なら、特に美奈子ちゃんならそう考えてもおかしくないわ。
「じゃあ偶然を装って合流しましょうか」
「うん、ばったりとね」
 私達は店を出るために席を立った。案の上、店のすぐ外の柱の陰から長い髪
が見え隠れしている。
(やっぱりあたしたち気が合うのよ)
 どこからか、そんな台詞が聞こえてくるようような気がした。
 
                                終

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