『Sailor Jupiter with HAPPY X’mas』



 わたし木野まこと14歳中2、いて座のO型。性格は人よりちょっと力持ちで
惚れっぽいてとこかな? そしてご存知、愛と正義のセーラー服美少女戦士セー
ラージュピターやってるんだ。 


 今日は12月25日。12月の25日って言うと誰でも思い浮かぶのが・・・
・、そうクリスマス!
 実は今日セーラー戦士達のみんながこの部屋に集まって、クリスマスパーティ
ーを開くことになってるんだ。いいだしっぺはあたし(^^)
 変に思われるかもしれないけど、実はちゃあんと目的があるんだ。
 そ、れ、は・・・・元基おにーさん(きゃー言っちゃったぁ)。
 今日のパーティーには元基さんにも出てもらう事になっている。外国に行って
いるレイカさんには悪いんだけど、一人で寂しいクリスマスを送らせるなんて、
可愛そうだもんね。
 だ、か、ら、今日だけはレイカさんの変わりになってあげてもいいかなー、な
んて虫が良すぎるかな(^^;)
 この部屋でパーティを開くのも、実は元基さんにあたしの手料理を食べてもら
いたいため(^^) みんなには料理を出すのに都合がいいからっ、てことにしてあ
るんだけどさ。
 でも実際普通の献立と違ってケーキを焼いたりオードブルを作ったり、好きな
人でないと揃えていないような調理具を使ったりするからね。
 勿論元基さんを呼ぶダシにするために、みんなにパーティをもちかけた訳じゃ
ないよ。本当のことを言うとずっと憧れてたんだ・・・・
 真っ白なテーブルクロスの上にキャンドルライトの灯ったクリスマスケーキ、
七面鳥とクラッカーの匂い。そしてちょっぴりアルコールの入ったシャンペン。
またたくツリーの明かりの中で、気の合う仲間どうし朝までおしゃべり・・・・。
 楽しいクリスマスの思い出なんて、もうずっと昔の話。家族で過ごしたクリス
マスは、いま思いだそうとすると必ず悲しみまでも一緒に連れてきてしまう。
 だから今は、楽しいクリスマスの思い出を作りたい・・・・。
 なーんてね。さて・・・・と、みんなが来るまでまだまだ時間はあるけど、今
日は手間のかかる料理ばかりだし(それにみんないっぱい食べそうだし)、今か
ら準備をしといた方がいいかな。それにケーキは3種類も用意しなくちゃいけな
いんだし。
 普通クリスマスケーキって言ったら思い出すのは、いちごとたっぷりの生クリ
ームで飾ったデコレーションケーキだろ。最初はそれだけ作るつもりだったんだ
けど、うさぎちゃんがチョコレートクリームのも食べたいなんて言うから、それ
も作ることにしたんだ。
 で、驚いたのは美奈子ちゃんで、彼女バタークリームのケーキが好きだって言
うんだもんな。
 でもまぁ、やると決めたからにはとことんまでやらないと気がすまないし、何
よりみんなわざわざ来てくれるんだもの、それくらいの事はしなくちゃね。でも
こりゃあ大変だなぁ。
 まずは七面鳥とケーキのスポンジベースを仕込んでおいて、それから部屋の飾
りつけをしないと。そうそう、みんなに渡すプレゼントもちゃんとラッピングし
ておかないと・・・・。
 クリスマスパーティと言えばプレゼントの交換会ってね。ちょっと発想が子供
っぽすぎたかな? でも好きな人に堂々と贈り物をできる機会なんて、そうある
ことじゃないもんね。
 元基さんへのプレゼントは手編みの白いマフラー。セーターを作るにはちょっ
と時間が足りなかったけど、その分ひと目ひと目にあたしの心がこもっているか
ら、暖かさは抜群のはずさ(^^) それにこのマフラー、実は2人で使えるように
少し長めにつくってあるんだ(^^)
 あぁ、早く夜にならないかなぁ・・・・。

 Tulllll、Tulllll・・・・

 はい木野です。あ、亜美ちゃんどうしたの? え?クリスマス特別セミナー?
でも今日塾はいつも通りの時間に終わるんだろ? ・・・・そう、大学の講師を
迎えて質問会? じゃあ何時になるか分からないの? うん分かった、みんなに
はそう言っておくよ。うん、大丈夫だよ。・・・・うん、残念だね。今度の時は
・・・・そうだね、うん、じゃあ勉強頑張ってね。
 チン・・・・。
 はぁ、亜美ちゃんはキャンセルかぁ。大体日本の塾ってどうかしてるよな。ク
リスマスだからこそ、正月だからこそ気合いをいれなくちゃならない、とか言っ
てさ。あたしは勉強苦手だからよく分かんないけど、それってやっぱ何か変なよ
うな気がするなぁ。
 でも・・・・仕方ないよね。亜美ちゃん、将来はお医者さんになるつもりなん
だし、それが難しいってことくらい、あたしにだって分かるもの・・・・。

 Tullll、Tullll・・・・

 あ、また電話がかかってきた。
 はい・・・・レイちゃん? え!? 都合が悪くなった・・・・ってどういう
こと? ふぅん、おじいちゃんが? クリスマスに対抗して境内で宴会? 
 そりゃクリスマスは向こうの風習だけどさ(^^;) ケーキのかわりに大福!?
じゃあ七面鳥のかわりは? ふーん、それで今日はお手伝いなんだ・・・・。う
ん、分かったよ。みんなにはそう言っておくから。じゃあね。

 そうだった。レイちゃんの家って神社なんだもんね。あのおじいちゃんならや
りそうな事だな。
 でもどうしよう。2人も減っちゃうと料理が余っちゃうな。それでなくても今
日はいつもより、多めに作るつもりだったのに・・・・。
 まぁいいか、2人の分はあたしとうさぎちゃんと美奈子ちゃんで何とかなるだ
ろうし、元基さん、あれで結構食べるかもしれないし。
 とりあえずそういうことにして、そろそろ部屋の飾り付けをしないと・・・・。

 Tullll、Tullll・・・・

 やーれやれ、飾り付けが終わったと思ったらまた電話だ。本当に今日は電話が
多い日だな。
 もしもし木野ですが・・・・やぁ、美奈子ちゃんだったのか。ごめんごめん、
そんなつもりで言ったんじゃないんだ。実はね・・・・え? なによく聞こえな
かった・・・・いま外からなのかい? 学校のクリスマス会!? これから?
でも普通学校の行事って言ったら昼にやらないかい? ホテルで立食パーティ!
 いいなぁ、うん、行ってきなよ。こっちはこっちで楽しくやるからさ。ううん、
気にすることなんてないよ。うん、そーいうのには出といた方がいいって。どう
せ学費から取られてるんだろう? うん、分かった、それじゃあね。

 どうしよう、美奈子ちゃんまで来れなくなっちゃったら、完璧に料理余っちゃ
うな。七面鳥はさっき仕込んだばかりだから今更あとには引けないし、シチュー
なんて昨日から煮込んでるのに・・・・それも6人分。困っちゃったなぁ。
 あたしとうさぎちゃんと元基さん、3人だけでクリスマスパーティか・・・・。
 みんな揃わないなんて、なんだかすっごく残念。
 そうだ、美奈子ちゃんが来れないってことは、バタークリームのケーキ、作ら
なくっていいのか(^^;) あれ作ったことないから、今イチ自信なかったんだ。
それじゃあそろそろオードブルにとりかかるとしますか・・・・。

 Tullll、Tullll・・・・

 ちょっと待ってよ。まさか今度もまた・・・・

 Tullll、Tullll・・・・

 どうしよう・・・・でも何か別の用だったら困るし・・・・。

 Tullll、Tullll・・・・

 そうだよね、何もそう毎回断りの電話とは限んないよね。もしかしたら誰か、
都合がよくなったのかもしれないし。

 ・・・・はい木野です・・・・うさぎちゃん!? なに? どうしたの? 家
族でお出かけ? 泊まりがけで? ・・・・ふーんそうなんだ。きっとうさぎち
ゃんのお父さん、びっくりさせようと思って黙ってたんだ。
 ・・・・そんなこと言って、実は衛さんと2人きり、なんてことはないだろう
ね。ははっ、冗談だよジョーダン。うん、材料の買い物は昨日のうちに済ませて
あるよ。え? あぁ、日持ちのするものはとっとくから大丈夫だよ。食べきれな
いくらいあるんだもの・・・・2、3日で腐りゃしないって。
 おみやげ何がいいかって? ううん、気にしないでいいよ。本当だって(^^)
 じゃあ道中気をつけてね。うん、それじゃあね。

 家族旅行か・・・・そうだよね、うさぎちゃんにはちゃんと大事な家族がいる
んだもんね・・・・。クリスマスの当日にクリスマスパーティなんて、やっぱり
考えが甘かったかなぁ。
 !。 ちょっとまてよ・・・・。
 と・・・・いうことは・・・・だ。
 もしかして・・・・今日は元基さんと・・・・2人っきり!?
 うっわぁぁぁぁぁぁ(*^^*;;;;;;;;;;;;;;;;;)


 落ち着け、落ち着くんだ木野まこと。水でも飲んで冷静に考えるんだ。
 ・・・・はぁ、まさかみんなでグルになって、あたしと元基さんが2人っきり
でどうするか覗こうってんじゃないだろうな。
 でもうさぎちゃんや美奈子ちゃんならやりかねないもんな(^^;) そう言えばレ
イちゃんだってそういうイタズラ、案外好きそうだもんなぁ。
 みんな元基さんが来ること知ってるし・・・・。
 でも亜美ちゃんはどうだろう? 彼女そんなことするかな? いや! うさぎ
ちゃん達にまるめこまれたかもしれないぞ。亜美ちゃん、相手に強く出られると
押し返しきれないところがあるからなぁ。
 でもまぁ・・・・その時はその時だ。みんなが覗いていようがいまいが、元基
さんと2人っきりになれるのは事実(^^)
 よぉーし、そうと決まったらはりきって料理の続きにとりかかろうっと。


 うん、準備は万端あとはみんなを待つだけだな。料理はちょっと少な目に作っ
て4人前(^^;)ってとこかな?
 これならうさぎちゃん達が来ても来なくてもなんとかなるしね。もしみんなが
あたしと元基さんをからかおうってんなら、ぜーったいに食べさせたりなんかし
ないから(^^)
 さてと、予定ではあと1時間くらい時間があるな・・・・ちょっと早いけど、
待っているのもなんだからクラウンに行ってみようかな。なんたって(一応)2
人っきりなんだもんね。
 この際だからティーセットも新調して、シャンペンも少しアルコール強めのに
したりして(^^)
 いけないいけない。あやうくうさぎちゃん達の手にのせられる所だった・・・
・でも、本当にうさぎちゃん達、これないかもしれないんだよね。
 ・・・・ティーセットくらい買っておいてもいいかな。
 ・・・・どうせそのうち買うつもりだったんだから、今買ったって一緒だよね。
 白いテーブルクロス、キャンドルの明かりだけの中、見つめ合う2人・・・・
なーんて、なーんて、なーんてね(^^;;;;;;)
 よしっ、シャンペングラスも新調しちゃおうっと。


 町で買い物をすませた頃には、あたりはすっかり暗くなっていた。
 でもさっすがにクリスマスっていう雰囲気。街路樹の1本1本がクリスマスツ
リーのようにライトアップされて、輝くイルミネーションの1つ1つがまるで星
のよう。
 空はどんよりと曇っていて本物の星なんか見えそうにないけど、もしかしたら
ホワイトクリスマスってことになるかもしれない。
 それもロマンチックでいいなぁ。
 そんな事を考えながらもあたしの足は、クラウンに向かって歩いていた。いま
さっき買ったばかりのティーセットとシャンペングラスが、あたしの歩きに合わ
せてカチャカチャと楽しげに音をたてる。
 元基さん今日はバイトを早めに切り上げるって言ってたし、2人でおしゃべり
しながら帰る・・・・(^^) 端から見ると本当の恋人どうしに見えるかもね。

『ゲームセンタークラウン』

 自動扉のちょっと前に立ち、あたしは軽く深呼吸した。
 いきなりクラウンまで来っちゃったこと、なんて言えばいいかな?
「誰もこないから迎えにきたの」じゃ、かえって遠慮されちゃいそうだし、ここ
はやっぱり「材料の買い足しの帰り」ってのが無難かな。うさぎちゃんや亜美ち
ゃんが来れないの、最後まで言わない方がいいよね。今もどこかで・・・・
 あたしは素早く振り返って後ろを見た。誰もいない。
 今もどこかで、こっちの様子をうかがっているかもしれないし(--;)


 ウイイイン。
 自動扉が左右に開いた。とたんにあたしの耳にゲームセンター独特の喧噪が飛
び込んでくる。クリスマスのせいもあってか店内はいつも以上にカップルが多い。
 でも、今日はあたしだって(^^) さて元基さんは・・・・。
「やぁ、まこちゃん」
「わっ!」
 突然横から声をかけられて、あたしはちょっとびっくりしてしまった。
「あ、おどかしちゃった? ごめんごめん」
 あぁ、これ、この声なの。いつ聞いてもふられたセンパイにそっくり(*^^*)
「元基さん・・・・」
 さっきまで言おうとしていた言葉が、先に元基さんに声をかけられたことで全
部頭の中から抜けでていったような気がする。
 それでも気をとりなおして、あたしはせいいっぱいの微笑を浮かべて彼の方に
振り向いた。
「こんにちわ、お久しぶりね」
「あ・・・・レイカさん?」
 振り向いたあたしの目に写ったのは元基さんと、彼の本当の恋人で外国に行っ
ている筈のレイカさん・・・・。
「いつ・・・・日本に?」
 ちょっと声が乱れていたかもしれない。でも周りの喧噪で元基さん達は気がつ
かなかったみたい。
「実は今日急に帰ってきたんだ。僕もついさっきまで知らなかったんだよ。もっ
とも彼女の方は分かってて黙ってたらしいけど」
 照れたように頭をかきながら元基さんが話す。センパイと声がいっしょなだけ
に、ちょっとつらい。
「私が日本を離れている間に、まこちゃんみたいな恋人を作ってるんじゃないか
と思ってこっそり帰ってきたの」
 でも、笑いながらそう言うレイカさんの表情は、私から見てもとてもきれい・
・・・ううん、カワイイって感じがする。
「ここでまこちゃんに会えてよかったよ。実はさっきから何度も家の方に電話し
ていたんだけど、今日のパーティー・・・・」
 元基さんが口ごもる。悲しいけど、それだけであたしは分かってしまった。
「だいじょうぶ。2人のお邪魔しようなんて野暮なこと考えてないよ。こっちは
5人もいるんだし・・・・」
 とっさについたウソ。ほんとは誰も来ないのに・・・・。
「誘ってくれたのにごめんね。また今度うめあわせはするから。うさぎちゃん達
にも謝っておいてよ」
 元基さんの表情が明るくなった。よかった・・・・。
「じゃあ私、まだ準備が残っているから・・・・」
 あたしは2人に背をむけるとクラウンをあとにした。


 右手にさげた袋の中でティーセットとシャンペングラスが音をたてている。
 勝手に一人でうかれちゃって・・・・なんだかあたしって莫迦みたい。子供み
たいにクリスマスパーティーがやりたいって・・・・本当はみんな迷惑に思って
たのかな。
 料理・・・・ぜんぶ無駄になっちゃうね。今日はとても食べる気になんてなれ
ないよ・・・・。
 ケーキも残念だけど全部捨てちゃおう。せっかく作ったけど、1人でキャンド
ル灯して1人で消すなんて悲しすぎるもの。
 ううん、それより・・・・今は家に帰りたくない。ツリーも白いテーブルクロ
スも七面鳥も今は見たくない。
 いずれ帰らない訳にはいかないだろうけど、せめて今夜くらいは・・・・。
 でもどうしよう。行くあてなんてないし・・・・。
 まぁ、いいか。しっかりしなよ木野まこと! あんたそれくらいで落ち込む程
ヤワじゃないだろう。とりあえずどこかで時間を潰そう。
 そうと決まれば・・・・
 あたしは手にさげていた袋を見た。買ったたばかりのティーセットとシャンペ
ングラス。これ持ったままってのもなさけないよね。
 だってこれって言ってみれば、あたしが1人でうかれてた証拠みたいなもんじ
ゃない。
 これだけでも家に置いてこようかな。玄関のドアのノブにかけておけばいいよ
ね。それでもし盗られるんだったら、それでも構わない・・・・。


 帰りぎわに亜美ちゃんの行っている塾の前を通った。窓の近くを行きつ戻りつ
している講師の姿が見える。
 亜美ちゃん、今ごろあそこで勉強しているのか・・・・。そういえば、他の3
人と違ってクリスマスと関係ないことしてる(^^)のって、亜美ちゃんだけなんだ。
 終わるまで・・・・待ってみようかな。
 うん、そうだね、そうしよう。でも・・・・それにしてもこの荷物は一端家に
置いてこないと。


 より道をしていたせいか、マンションの前についた時にはもう8時近くになっ
ていた。7時開始のパーティを目指して作っていた料理もとっくに冷えちゃって
るだろうな・・・・いけないいけない、どうせ食べる気なんてないんだから。
 エレベーターの扉が開く。降りて右に曲がればあたしの部屋のドアが目に入る。
 あれ? ドアの前に誰かいる!
「亜美・・・・ちゃん?」
 何がなんだか信じられないような気持ちで、あたしはおそるおそる声をかけた。
「まこちゃん」
 すこし寒そうにしていた彼女は、あたしを見るとほっとしたような表情をうか
べた。
「塾、途中で抜けてきちゃった。うふっ」
 くったくのない笑顔であたしを見上げ、手にさげていた紙袋をさしだす。
「これ、遅れちゃったおわびに差し入れ持ってきたの。でも誰もいなかったから、
どこかへ行っちゃったんじゃないかって心配していたのよ」
「・・・・ゴメン」
 あたしはそうとしか言えなかった。
「ごめんね亜美ちゃん・・・・」
 本当にごめんね。
「そんな、まこちゃんが謝ることないわ。これないかもしれないって言ってたの
に来ちゃったの、私なんだから」
「寒かっただろ、すぐに部屋暖っためるから中に入ってよ」
 あたしは鍵を取り出すとドアを開けた。
 すぐに戻るつもりで暖房をとめて出ていたから、部屋の中は外と同じくらいに
冷えきっていた。
 そして、テーブルの上には手つかずの料理が、出がけにかけていったラップの
内側を白く曇らせている。
「うさぎちゃん、家族で旅行に行くんだってさ」
 何か訊きたそうにしている亜美ちゃんに、あたしはそう言った。
「そうなの・・・・」
 誰も食べていない料理を見た亜美ちゃんは、それだけで全てを理解してしまっ
たかのように応えた。
「レイちゃん、おうちの方の手伝いがあって・・・・美奈子ちゃん、学校のクリ
スマス会があるんだって」
「うん」
「元基さんは・・・・元基さんは、今日はレイカさんと一緒なんだ」
「そう・・・・」
 亜美ちゃんは差し入れの入った紙袋をテーブルの脇に置くと、あたしの用意し
た小さなクリスマスツリーの方に歩いていった。そしてぱちりとスイッチを入れ
る。とたんに、ツリーは色とりどりの明かりで包まれた。
「・・・・じゃあ、パーティー始めちゃおうか」
 振り向いた亜美ちゃんは、そう言うとにっこりと微笑んだ。
「・・・・そうだね」


 わざと暗く落とした明かりのなか、小さく切ったケーキに1本ずつだけキャン
ドルをたてて、買ってきたばかりのシャンペングラスで乾杯。
 冷めてちょっと固くなってしまった七面鳥を分けあって、そして2人だけでプ
レゼントの交換。
「いいの?まこちゃん。これって・・・・」
 亜美ちゃんの手には、元基さんにあげるはずだった手編みのマフラー。
「いいんだ。待たせたおわび」
 口ではそう言ったけど本当は違う。心をこめて作ったものだから・・・・、だ
から今は亜美ちゃんにもらってほしい。そう思ったんだ。
「それちょっと長めだろ。ほんとはさ、こーやって・・・・」
 あたしは立ち上がってマフラーの一方の端を亜美ちゃんにかけ、もう一方を自
分の首に巻いた。
「使うん・・・・だけ・・ど」
 2人用なんだよって事を言いたかっただけなのに、亜美ちゃんと目が合って、
あたしは妙にどぎまぎしてしまった。
「こんな感じかしら?」
 亜美ちゃんがそっとあたしの腕をとる。
「そ、そう、そんな感じ・・・・」
 ぎこちなく視線をそらしながら言った声は、自分でそうだと分かるくらいうわ
ずっていた。
「・・・・・・・・くすっ」
「・・・・・・・・フッ・・フフっ」
 ふいに亜美ちゃんが笑った。それを聞いたらなんだかあたしまで急に笑いがこ
みあげてきてしまった。
「ふふふっ・・うふふふふ」
「あはっ、アハハハハッ。ハハハハハハハハハハ・・・・」

「くすっ」

「ははっ・・・・ぁーあ」
 そのまま、あたしと亜美ちゃんはかなり長いあいだ笑いつづけていた。そして
笑い終わった頃には、どちらからともなく床に腰を降ろしていた。
「よかった。今日のまこちゃん、ずっと元気なかったから・・・・」
「亜美ちゃん・・・・」
 亜美ちゃんにそう言われて、あたしは自分の気分がさっきまでとは全然変わっ
ていることに気がついた。そういえば・・・・思いきり笑ったせいか、なんだか
すっとした感じだ。
「まこちゃん、ひょっとしてあのとき緊張した?」
「うん、元基さんと会う時より緊張しちゃった(^^)」
 なんでだろう。亜美ちゃんといるとなんだかとっても心が落ち着いて、和んだ
気分になれる。うさぎちゃんやレイちゃんや、美奈子ちゃんでは感じることのな
い・・・・そう、あたしの部屋に置いてある植物たちが、いつも私の心を安らか
にしてくれるみたいな、それに近い感じ。
「まこちゃんの部屋って、いつ来ても緑が沢山あるのね」
 あたしの様子に気がついたのか、亜美ちゃんが部屋の中を見まわした。
 部屋の中にはホプリや鉢植えが、天井から釣り下げてあったり床のあちこちに
置いてあったりする。
「うん、観用植物を育てるのが趣味なんだ・・・・あっ」
 そう応えてぐるっと部屋の中を見たあたしの目に、ちょっとしおれたデイジー
の鉢植えが写った。
「いっけなーい。そう言えば今日は朝から水をあげていないんだった」
 あたしは慌ててキッチンに走ると、いつも使っている霧吹きに水をいれた。そ
うして部屋に戻ってくると、それぞれの鉢植えに水をあげてまわった。
 植物の心が分かる訳じゃないけど、それだけで心なしか花も葉も元気になった
ような気がする。
「・・・・!」
 その瞬間、あたしは不意にあることに気がつき全てを納得した。
 そうか・・・・そうだったんだ。
「まこちゃん、どうかしたの?」
 水をやりかけたまま動きが止まってしまったあたしを心配して、亜美ちゃんが
声をかけてくる。
「え、ううん、なんでもない」
 水・・・・。どうして亜美ちゃんといっしょだと心が安らぐのか。それは亜美
ちゃんが水だから。
 植物にとって、木にとっての水の存在。木野まことという植物にとって水野亜
美は、まさしく水であるという事・・・・。
 あたしという人間の乾きをいやしてくれる、それが水野亜美、彼女なんだって
事をあたしはあの瞬間に理解したんだ。
「・・・・亜美ちゃん、優しいんだね」
「えっ?」
 この星を、すべての生命を優しく包み込むその力・・・・
「今日はもう・・・・誰もこないだろうって諦めてたから・・・・だから亜美ち
ゃんが、塾を途中で抜けてまで来てくれるなんてうれしくって」
「まこちゃん、私のこと優しいって思う?」
「うん」
「・・・・だったらそれは、まこちゃんが優しいからそう思えるのよきっと」
「そんな・・・・」
 そんなことないよ。だって、みんな来れないかもしれないって時に、あたしは
元基さんと2人っきりになれるって喜んでたんだもの。
「ううん、私が行けないかもしれないって電話したとき、まこちゃん私に勉強頑
張りなよって言ってくれたでしょう。きっとうさぎちゃんやレイちゃんや美奈子
ちゃんの時も、引き留めるようなことは言わなかったんじゃない?」
 それはそうかもしれないけど・・・・。
「まこちゃん私の・・・・私達のこと考えててくれてるのが分かるから、だから
来たの。まこちゃんの優しさはね、きっとみんなも分かっていると思うわ」
 ピンポーン ピンポーン
 亜美ちゃんの言葉をさえぎるように、ドアのチャイムが続けて鳴った。
「こんばんわーっ」「おじゃましまーす」
 レイちゃん、それに美奈子ちゃん!
「遅れてごめんねー。うちの方は雄一郎にまかせて抜けてきちゃった。はいこれ
遅れたおわび。よかったら食べて、大福だけど(^^)」
「あ、ありがとう・・・・」
「うーーーーーん、いい匂い。私おなかぺっこぺこなの」
 美奈子ちゃん、そう言うとテーブルの上にあったエビフライを口に放り込んだ。
「あぁしあわせ(*^^*)」
「美奈子ちゃん、ホテルのパーティで食べてきたんじゃ・・・・」
「うん、ホテルのお料理とってもきれいだったんだけど、どのテーブルにも同じ
ものが並べられてるの見てたら・・・・なんていうかな、急にまこちゃんの作っ
たものが食べたくなっちゃて。でも途中で抜けるのも気まずいし、ずぅっと我慢
してたの。だから・・・・これも食べさせてね(^^)」
 美奈子ちゃんは目をきらきらさせながら、鳥のもも肉の照り焼きをとった。あ
たしと亜美ちゃん、ちょっと苦笑しながらうなずく。
「あ・・・・ごめん美奈子ちゃん、バターケーキ・・・・」
 来ないんじゃないかと思って作ってない。
「ふぁいひょーふ。んぐっ。そんなこともあろうかと思って、じゃーーん!」
 美奈子ちゃんの持ってた包み、何が入っているのかと思ったら中はかなりおっ
きなデコレーションケーキ(しかもバタークリーム(^^;))
「それにしても・・・・何か変だと思ったら、うさぎがいないじゃないの。食べ
過ぎでトイレにでも行ってるのかと思ったんだけど」
 バスのほうを覗きに行ってたレイちゃんが、ちょっと不満そうな顔でもどって
きた。そう、この場にはうさぎちゃんが欠けている・・・・。
「うさぎちゃんね、今日は・・・・」
 ピンポーン
「おっまたせーーー。あーーーーっ、みんなもう食べてるぅ」
「うさぎちゃん!」
「うさぎっ、あんた今まで何やってたのよ」
「うさぎちゃん、家族で旅行に行ったんじゃ・・・・」
 びっくりすることが立て続けに起こったせいで、あたしは何を言っていいのか
なんて訊けばいいのか分からなかった。
「だって、まこちゃんと約束した方が先だもん」
 あっけらかんとした口調で応えるうさぎちゃんを見てると、なんだか胸があつ
くなってくる。
「でも温泉も行きたかったなぁ」
 おいおい(^^;)
 返す言葉もなくて亜美ちゃんの方を見ると、彼女は「ほらね」というふうに笑
って小さくうなずいた。


 真っ白なテーブルクロスにちょっと減ったお料理。2人分欠けたケーキにもう
1度キャンドルを灯して乾杯。クラッカーを打ち鳴らして本日2度目のパーティ
が始まる。
 そしてお料理を食べたあとは、またたくツリーの明かりの中で気の合う仲間ど
うし朝までおしゃべり。
 ずっと憧れていた素敵なクリスマスがここにある。
 とっても素敵な、とっても楽しい、あたしのHAPPY X’mas・・・・

                                Fin.


解説を読む


感想などありましたらこちらまで heyan@po2.nsknet.or.jp

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