「解熱剤」考



こどもが熱を出せば、平日はもちろん日曜日や夜中でもおかまいなく医者の所に駆けつけて、当たり前のように熱冷まし(座薬や飲み薬)が使われる。これは日本の医療にとっては半ば常識。そうしないほうが非常識。しかも、3種類の解熱剤が同時に使われていることもあるそうだ。私もそんな処方せんを見て、驚いたことがある。でもそのほうが親切な医者なのだとか・・。逆に私のような解熱剤を出さない医者は不親切な医者。熱を早く下げて少しでも楽にしてあげたい。けいれんが恐い、頭に熱が付かないか心配だ、などと“ご親切な”医者とお母さんが、せっせ、せっせと座薬を入れる。(解熱剤 病気を悪化させることも


風邪は薬を飲むから治るんだと思っていらっしゃる方がいる。実は、白血球や抗体などの免疫系の働き、すなわち体に本来備わった自然治癒力で治るのだ。発熱すると免疫系の働きが活発化し、病気を治す力がよりいっそう強まる。その上、ウイルスは高温を苦手としている。したがって、いたずらに解熱剤を投与することはこの大切な働きを邪魔することになり、結果的にウィルス側に味方することになる。こどもがかわいいのか、ウィルスが大事なのか。最近の研究でも解熱剤を飲むと体内からのウイルスの消失が遅れることがわかってきた。ウサギの実験でも、解熱剤を与えるとリンパ節内のウィルス量が1000倍に増え、死亡率も4倍以上に増えるという結果が出ている。解熱剤は病気を治すというより逆に悪化させるのだ。(参照:解熱剤は必要?


39度、40度になれば確かにつらそうだ。親とすれば座薬を入れたくなる。しかし、私はこう言う「高熱ほど座薬を入れてはいけませんね。」「実はきのう、日曜当番医で座薬を入れました。でも下がらなかった。」「下がらなくてかえってよかったのですよ。熱が上下する方がよほどつらい!」

解熱剤で 熱を下げても又上がる。無理矢理下げたことに反発するかのようにより急激に・・・。寒気(さむけ)を訴え、体がぶるぶるふるえる。唇は紫色に変色し、手足は氷のように冷たくなる。意識さえおかしくなる。体が設定した体温に早く上り詰めようと筋肉が攣縮し末梢血管が収縮したためだ(発熱について・A)。「医者の親切、ありがた迷惑」子どものからだがそう訴えている。体温を3℃上昇させるにはジョギングや水泳を約20分間すると同じだけのエネルギーが必要だという。解熱剤を使えばそのたびに体温の上下が繰り返される。少しでも楽にさせたいという親心があだとなって、かえって体力を消耗していく。(参照:発熱について・B 3の2)のBをお読みください。)


脱水が心配だから熱を下げなくてはと医者はいう。本当だろうか?水分が一番失われる原因は解熱時の発汗。下着が汗びっしょりになる。解熱剤を使うたびに大量の水分が失われ、かえって脱水の原因を作っている。脱水を恐がったばかりによけい脱水になる。皮肉だ。付け加えれば、熱が出て寒気をともなっているときは汗腺が閉じているので発汗しない。体が熱を下げたくないのでわざわざそうしているのだ。下痢とか嘔吐がなければ熱だけで一般に高度な脱水にはならないもの。水分補給のための解熱はかえって危険ということだ。


熱性けいれんの予防だと称して、当たり前のように座薬を入れる。名前が“熱性”なのだから、それじゃ熱を下げればけいれんは起きないだろう。単細胞思考。実は解熱剤にはけいれんの予防効果はないのだ。けいれん体質のお子さんには抗けいれん剤の座薬を入れればよい。それで十分効果がある。余計なことはしてはいけません。

病気を治すには的確な診断が一番大切。やみくもに解熱を図ると病気がマスクされ、病状の正確な把握ができなくなる。誤診につながるということだ。私が医者になったばかりの頃、大学病院病棟で研修を受けた際「むやみに解熱剤を使ってはいけない!」と指導を受けたものだ。今の若い研修医はどのようなご指導を受けているのだろうか?


きょうも患者のお母さんが私に訴えました。日曜日に熱が出て当番医に行ったら、解熱剤が出た。「いりません」と言ったら、不快な顔で「ほっといたら熱が上がりすぎて脳が溶ける」と言われたとか。医者でも今もってこんな発言をする方がいる。人の体には体温を上がりすぎないように調節する機能がある。40℃になることはあっても41℃になることは滅多にない。危険域の42℃以上になるのは、保温のしすぎなどの特殊ケース(熱中症)だけである。ところが最近の研究では解熱剤で脳障害が防げないばかりでなく、むしろ逆に解熱剤を使うとかえって脳障害が起きやすくなることがわかってきた。ライ症候群とかインフルエンザ脳症、急性壊死性脳症という病気だ。(この詳細は「見聞録」をお読みください。参照: 1.副作用通報事例に関する調査報告 2.インフルエンザ脳炎・脳症のまとめ 3.解熱剤(2)


解熱剤自体の副作用も考えておかなければならない。効きすぎによる低体温はしばしば見られる症状。ショック症状による死亡事故も決して稀ではない。大阪小児科学会の調査ではショックや低体温を経験したドクターが35人もいたとのこと。私の知り合いの医者からも、自分の指示で入れた座薬でショック死した患者さんの話をきいたことがある。そのほかに腎不全、顆粒球減少症、血小板減少症、中毒性表皮壊死症など死につながりかねない副作用も時に生ずる。上記の脳症の危険性もある。そんなに命を懸けてまでどうして熱を下げるのか?「吉田君はオーバーだよ。座薬をいつも入れてるけど事故は今まで一度も経験していない。」こんなことを言う方がいる。自分の経験にだけ頼った治療。他人の失敗を「他山の石」とできない医者。“結果オーライ医療”はいつかは手痛いしっぺ返しに会うものだ。(かぜ症候群と薬薬による過敏症


発熱のメカニズムや解熱剤の副作用については多くの医者はよく知っている。そんな医者でも解熱剤を出す。私が「どうして?」と尋ねると「患者がほしがるから」という返事が返ってくる(Fever phobiaの克服に向けて)。患者の望む医療をするのが医者のつとめと言えば聞こえはいいが、医者の専門性は一体いずこに・・・?。(専門家もいる:杉並区医師会だより 、風邪の養生法

患者さんから聞いた話だが、あるドクターが講演で言ったという「熱に解熱剤は必要ないが、出さないと患者離れにつながり医院の経営が成り立たなくなる。」これが本当だとすれば、医者は、患者さんの体よりも自分自身がかわいいから座薬を出しているということになる。私もある医者から次のように言われことがある。「全国一斉に解熱剤を出さないことにするなら私も出さないんだけど・・。」座薬を出さないと患者に逃げられるとでも思うのでしょう。寂しいことだが経済的な問題は確かに大きいようだ。しかし、これだけでは説明できないことがある。経営のことを気にしなくてもいいはずの大学病院の医者も同じように解熱剤を処方している。ということは、これは単なる慣習からきたものなのだろうか?一旦身に付いた悪習はわかっていてもなかなか直らないものだから・・・。それともほかにもっと深い理由があるのだろうか?

「患者がほしがるから」が処方理由(?)というのに、患者さんから「いらない」と言われるとプライドを傷つけられたかのように、まともに怒ったり、もろに不快な顔をして、無理にでも処方しようとする。時には「脳がとける」などと脅かす。言っていることとしていることが全く逆で、どうも合点(がってん)がいかない。表向きは「患者がほしがるから」であっても、本当の理由は「患者の意向は無視してでも、自分のしたい治療はする。」ということなのか?それではなぜ患者さんの意向を無視してまで解熱剤を出したがるのか?

小児の発熱の約90%はウィルス感染すなわち風邪である。小児科外来に来る患者さんの90%は特に治療しなくても治る病気ということだ。内科の開業医も風邪は重要な収入源だとか・・。この大切な(経営的に)患者さんに解熱剤を出さなくなるとすれば、次に待っているターゲットは抗生剤。しかし、抗生剤は風邪には全く効かず、解熱剤以上に無用な薬である(風邪と抗生物質)(風邪の話)。どの医者もよく知っている。解熱剤の“砦”が崩れたとすれば、抗生剤の抵抗はあって無きがごとし。抗生剤も出せなくなるとあとは出す薬がない。咳止めや鼻水の薬も本当は必要のないもの。薬が必要ないということが患者さんに知れてしまうと、最後には「もしかして医者自体が必要がないのかも」と思われてしまう。そして、ちょっと熱を出したぐらいでは医者の所に来なくなる。医療経済を第一義とする一部の医者にはこれはこわいですね。医者は患者さんを診てこそ自分の存在理由を確かめられるもの。大学の若い医者ならば自分の将来にい いしれぬ不安を感ずるであろう。単に「解熱剤は不要だから出さない」ではすまされないのである。解熱剤使用派の抵抗が激しいのは、こんなところに理由があるのであろうか・・・。


今ほどこんな患者さんが来た。1才6ヶ月の女の子。昨夜から39.7℃の高熱があるが、咳も鼻も下痢もない。胸はいい音がするし腹部も大丈夫。のどが少し赤いだけ。鼓膜も正常。髄膜刺激症状もない。炎症反応のCRPは0.2、白血球も6,800といずれも正常。私「風邪だけですのでお薬なしでも行けますよ。」母親「抗生剤が必要ないんなら、薬なしでやってみます。」


あなたが診ようが診まいが、ほとんどの外来患者の病気は治るものである。

ドクターズルール425(医者の心得集)クリフトン・ミーダー著・福井次矢訳、南江堂


私のクリニックでは「風邪にどんな薬もいらない」の第3ステップの段階に入りつつある。これで納得する患者さんが増えてきた。すでに第4ステップ「医者に来ない」の段階にある母親もいる。もっとも、こんなことはアメリカやイギリスでは当たり前のことなのだが・・(参照:日英医療の差について 2.あなたの子どもと抗生物質)(なお、第1ステップ:風邪に解熱剤は使わない、第2ステップ:風邪に抗生剤は必要ない)


インフルエンザ脳症・脳炎の臨床疫学的研究班(森島班)が『今後更なる研究が必要であり、これらの解熱剤とインフルエンザ脳炎・脳症による死亡との関連性については、結論的なことは言えない状況と考える。』と結論づけた。(参照:毎日新聞ニュース速報)解熱剤の適応を制限するなどの措置をとらなかった理由は私の考察から明らかでしょう。さらに、もしそんな警告を発すれば、脳症の患者家族から訴訟が起きた場合医者側が敗訴することになる。医者仲間のことを思いやっての結論であろう。心優しい方たちである。小児感染症学会が「脳症と解熱剤の関連に懸念が広がっているが、幼児の場合、高熱が続くので非ステロイド系抗炎症剤を使用せざるを得ないことも多い」とする見解を公表した。「使用は禁」と言えないご事情がいろいろあるということだ。これは、アメリカのCDCがライ症候群の時とった処置と大きく異なる。CDCは確定情報が得られるまでアスピリンは使うべきでないと勧告した。そしてライ症候群は見事に減った。医者仲間の都合を大切にするのか、患者に主眼を置くか の考え方の違いはとても大きい。患者にとっては命そのものに直結することだ。しかし、そのつけはいずれ医者自身が払わねばなるまい。(2000/7/5)

参考書:発熱と生体防御

健康私考(発熱と解熱剤について書かれた薬剤師のHP。とても詳しい解説。)


*********

早く来ないと治っちゃうよ〜


私は5年前まで解熱剤を使っていたので、その経験をもとに発熱のタイプを重症度別に大きく3つに分類してみた。ちょっと大ざっぱではありますが・・・。もちろん小児科学会公認ではありません。吉田の私的な分類だ。

A:軽症のタイプで解熱剤を使っても使わなくても数日で治ってしまう。頻度的に1番多いタイプで、一晩で自然に解熱することも多い。このタイプは解熱剤はたしかに効く。副作用も出にくい。しかし解熱剤なしでも治る。医者にも来なくていい。

B:最初タイプAと同じで比較的元気だが、解熱剤を使ってもすぐ又上がってきて、熱の上下を繰り返し、消耗していくタイプ。解熱剤を使えば使うほど治りが悪く病気が長引く。

C:最初からぐったりして水分も取れず、すぐにでも熱を下げてあげたいと思うタイプ。しかし、この場合はアセトアミノフェンは全く効かないか効いてもほんの一時的ですぐ上がってくる。ポンタールやボルタレンであれば熱は下がるでしょうが、次の上昇時に悪寒戦慄チアノーゼが生じ、非常に消耗する。解熱剤の副作用が一番起きやすいタイプでもある。この中には風邪だけではなく、肺炎、髄膜炎、尿路感染症、敗血症など重症感染症も含まれる。

タイプBとCは解熱剤を使うとかえって悪化しやすいので処方すべきでない。

タイプAは何をしようとも自然治癒するわけだから使いたかったら使ってもいいでしょう。ただ、その場合AとBの区別が最初出来ません。解熱剤を使ってみてはじめてわかるということだからタイプBに移行しそうなら、使用は中止した方がいい。私は最初から使わないが・・・。そして最悪の場合にはライ症候群や脳症のを発症も考えておかなければならない。脳症の例をみているとはじめは元気でAタイプのように見えて、その後急激に悪化し24時間ほどで死亡している。その見極めは医者にもわからない。私は自然治癒する病気に医者は過剰介入すべきではないと思っている。万が一の副作用の危険性も視野に入れた治療が大切と思っており、それが医者の役目だと・・・。

医院の経営面から考えますとタイプAの患者は大切にしなければいけません。「熱が出たらすぐ来なさい。時間外でも。」と日頃から患者教育しておかないと受診患者数が減る。1〜2日家でのんびり様子を見ていると熱が下がってしまうので・・・。私の大学での恩師(元教授)が言っていました。皮肉を込めて・・・。「早く来ないと治っちゃうよ〜」

日経メディカル8月号(2000年)に「小児救急輪番制維持への苦悩」という記事が載っていた。夜間に30人から日によっては70人以上患者が押し掛け、当直医は翌朝もそのまま休まず昼の診療に携わる。メンバーの一人のN医師の勤務状況は当直が先月は5回もあり、その上オンコール(自宅待機)が6回もあった。担当医師全員がおそらく慢性疲労状態にあると推測され、その窮状に対しご同情申し上げたい。しかし記事の中に「比較的軽症の患者が多いことも悩みの種だ」の一文がある。もしかして、一晩家で様子を見ておれば自然に治ってしまうような発熱患者もかなり含まれているのではなかろうか。患者のあいだで「発熱」についての理解が深まれば時間外患者はかなり減ると思う。そして、当直医は“本当の病気”に集中できることになる。

医者の集まりで時間外患者の対応が話題となった。私が「患者教育が重要だと思う。“熱であわてる必要がない”と教育すれば、時間外コンビニ受診は減るのでは・・」と提案したが一人の医者(開業医)から「それでは患者が減って医者の収入が減る。患者もハッピー、医者もハッピーでなければならない」と一蹴された。患者さんは時間外に診てもらえて一見ハッピーだが、実は医者に来るという無駄な労力と出費を強いられていることに気づかない。ハッピ−になるのは「経済」が大切な医者だけだ。

小児科のホームページを訪れてみると「熱が出ても元気なら解熱剤を使わなくていい。グッタリしてひどうそうなら使っても良い」と書かれているところが多くなった。しかし、繰り返すが、熱がより高く、元気がなく、グッタリしている時ほど、解熱剤の弊害が出る。病気がひどい時ほど生体防御機構が熱を要求しているので、無理矢理下げるとそれに反発してよけいに熱が上がる。より消耗する。病気も悪化し、合併症も起きる。ショックなどの副作用も出やすくなる。楽にしてあげたいという親切心が逆に徒(あだ)となるということだ。この点を強調したいと思う。元気な熱には解熱剤はよく効くが、そんな熱には元々解熱剤は必要ないということだ。したがっていずれの場合も不要ということになる。

熱に対して過剰なまでの恐怖心が母親から取り除かれれば、育児がどれほど楽しいものになることか。そして、休日や夜中に診てくれる医者を捜して走り回る苦労もなくなる。子どもも待合室で長時間待つ必要もなくなる。自分の家で静かに寝かせてもらうほうがどれほど楽なことか・・・。(2000/8/8)


解熱剤についてのメール到着(2000/9/17)


ついに発令!解熱剤(ボルタレン)が脳症患者に使用禁忌に


今冬(2000年〜2001年)からインフルエンザ脳症には解熱剤のジクロフェナクナトリウム(商品名ボルタレンなど)が使用禁忌になった。解熱剤使用派のドクターは「脳症になった患者さんだけに使用禁忌であって、その他の患者さんは使ってもいいのだ」と主張されるかも知れないが、実際的にはインフルエンザすべてに処方できなくなったと考えるべきだろう。なぜなら、発病から脳症の症状(けいれんや意識障害)が出るまでの時間は平均1.4日しかなく、急激な経過で悪化し短期間で死亡するので、どの時点から使ってはいけないのかの判断が難しい。午前の診察で普通のインフルエンザと変わりなかったのに、午後にはけいれん、意識障害で入院というケースもある。午前中に入れたボルタレン座薬の薬理作用は、この脳症と判断された時点ではまだ残っているはずだ。また、自宅で使用するようにと座薬を渡しておけば、脳症のけいれんを熱性けいれんと思って使うかも知れない。それに、けいれんを起こした時点で脳症、それまでは普通のインフルエンザってなことは考えられない。けいれんを起こす数時間前から脳症が徐々に進行していたはずだ。診療の現場で、大勢のインフルエン ザ患者の中から脳症になる、あるいはなりかけている子を見つけだすことは至難の業。現在の医療レベルではほとんど不可能と考えていい。したがって、今は普通のインフルエンザだからボルタレン座薬を使ってもいいのだなどと言っていると痛い目に遭うかもしれない。解熱剤好きな方もインフルエンザにはボルタレン座薬は使えないということだ。(ドクター林のなんでも診察室 カゼ症状と解熱剤、 ライ症候群/インフルエンザ脳炎・脳症の原因の可能性の強い 非ステロイド抗炎症剤の解熱剤としての使用中止を求める要望書提出)


日本小児科学会も、インフルエンザそのものにジクロフェナクナトリウムとメフェナム酸(ポンタールなど)の使用はひかえるべきだとの見解を発表した。「ガイドラインが出来れば解熱剤を使用しないのだが・・」と言っていたドクターもいた。そんな他人任せで自主判断の出来なかったお方でも、権威あるお墨付きがもらえて、これで安心して患者指導が出来るでしょう。たぶん・・・・。でも・・・、私には一抹の不安がある。きのうまでボルタレン・ポンタールを積極的に使っていた人が、次の日には処方しないとなると「きのうまでの治療は何だったの?」と母親は不信感を抱くかも知れない。そう思われたくない医者は自分のプライドを守るため緊急安全情報を無視してでも使い続ける恐れがある。その時の言い分はこうだ。「“医者の裁量権”で処方した」。医者にとってはこの“裁量権”は、恐ろしいことに時には使用禁忌にさえも優先するオールマイティなのだ。


もう一つの心配もある。日本小児科学会はより安全な解熱剤として、アセトアミノフェンを推奨している。しかし・・・、このクスリは解熱効果が弱いので今冬は座薬を入れても熱が下がらないケースが続出するだろう。熱恐怖症の母親は焦って座薬を入れすぎる恐れがある。入れすぎによる低体温も心配だが、副作用の肝障害が増える。欧米の小児科教科書には体重あたり10〜15mgを4〜6時間おいて使用すると記載されている。ということは、1日最大6回も使うことになり、1日量として、トータル60〜90mg/kgの使用量となる。ところが、これくらいの量で劇症肝炎を起こし死亡した例が報告されている。日本では添付文書(クスリの説明書)には体重あたり5〜10mgと書かれているが、この量では解熱効果が弱い。困り果てて、欧米の使用量の体重あたり15mgを処方する医者も出てくるであろう。学会が「安全、安全」と言っても、決して安心はできない。(2000/12/13)

関連リンク

  1. NPOJIP(『NSAIDs禁忌、アセトアミノフェンのみ』の徹底を!)
  2. 「インフルエンザ脳炎で死亡率14倍」 危ない解熱剤からこうして身を守れ 
  3. カゼに殺されないための常識
  4. 発熱に関する十章


ジクロフェナクナトリウム(ボルタレンなど)が風邪にも原則禁忌となりました。

平成13年5月30日、厚生労働省はジクロフェナクナトリウムと「ライ症候群(急性脳症)」に因果関係有りとして、小児のウィルス性疾患(風邪など)に原則使用禁忌と決定しました。同日の新聞報道では「小児のインフルエンザ脳症にポンタールを使用禁止とする」の記事に隠れて小さく書かれていたので気づかれなかった読者もいるかも知れません。(ジクロフェナクナトリウムの記事がなかった新聞もあります。)しかし、こちらの方がより重要な決定です。というのは、昨年暮れより、インフルエンザ、それも脳症に限って解熱剤の使用制限が打ち出されてきたのですが、ここへきて普通の一般的な風邪にも「禁忌」となったのですから、解熱剤使用派の医者にとってはこの決定は大きいはずです。「まだポンタールがあるから代わりにそれを使えばいいや」と思っていらっしゃるかもしれませんが、どうでしょうか。

ここで解熱剤のここ20年余の歴史を振り返ってみますと、まず、インダシンの座薬が使用禁となりました。ついで、メチロンの注射が禁忌となりました(後先逆だったかも・・・)。いずれも、ショック死する患者さんが続出したからです。その後、点滴用の解熱鎮痛剤(ヴェノピリン)やアミノピリン、アンチピリンもショック死の副作用のため、製造(or使用)禁止となりました。フェナセチンも確か使用制限が加えられた・・・。そして今回のボルタレン。このように解熱剤の歴史からみますと、ポンタールもそのうち禁忌になる可能性は高いでしょう。なぜなら、ライ症候群との関与が疑われているだけではなく、ショックの副作用はポンタールも決して稀ではなく、そのほかにも溶血性貧血や顆粒球減少症、腎障害、中毒性表皮壊死症などもあります。稀とはいえ、もともと使わなくてもいい薬でお子さんに副作用が出た場合、ご家族の方は悔やんでも悔やみきれないでしょうね。そのほかにもアスピリンやサリチル酸製剤(PL顆粒)も脳症の危険性があるということですでに使用制限されています。(2001/6/1)


小児のライ症候群等に関するジクロフェナクナトリウムの使用上の注意の改訂について


インフルエンザによる発熱に対して使用する解熱剤に対して

最後に注意!

熱の大切さを長々と述べてきましたが、だからといって熱のある子供を毛布でぐるぐる巻きにし、ヒーターでがんがん温めることはやりすぎですし、危険です。体に熱を与えすぎると「熱中症」になる恐れがあるのです。車に子供を一人寝かせてパチンコをして帰ってみたら死亡していたという事件、覚えていますね。温めすぎるとこれと同様な状況をつくることになるのです。インフルエンザ脳症と似た症状となり、けいれん・意識障害で死亡することさえあります。

ではどうするか。暑がったら冷やす、寒がったら温めるが基本ですが、それを表現できない小さいお子さんの場合は体を触って判断します。手足が冷たければ体温の上昇期です。この時寒気を感じています。温めてください。手足がほかほかのとき、わきの下に手を入れます。じっとりぬれておれば温めすぎです。1枚脱がせるか、冷やしてあげます。わきの下がぬれていなければちょうど良いと考えていいでしょう。体温の下降期には汗をかきます。このときは涼しくしてください。