面分業とかかりつけ薬局



1)患者さんのために「面分業」を
「患者のメリットを最優先する分業」をするのであれば、薬を住まいの近くの薬局でもらう「面分業」が優れています。どこの医療機関にかかろうとも、常に同じ薬局に処方箋を持って行き、薬剤アレルギーや重複投与、相互作用のチェックをしてもらう。これを日本薬剤師会は「かかりつけ薬局」といって推奨しています。一方、この病院にかかった時はこの薬局で、あの医院の時はあの薬局、というふうになるとこの機能は発揮できません。「利便性」よりも「薬の安全性」を重要視する分業が大切です。それは結局は患者さんのためになることです。        


2)薬局の多い地域での分業
それでは、今から分業をしようと考えている方はどうしたらよいのでしょうか。薬局の多い市街地の医療機関であれば既存の薬局をそのまま利用するのがベストです。地区薬剤師会に分業の意志を伝えてください。薬剤師会全体で的確に対応してくれるはずです。その場合、近くの薬局ではなく、薬剤師会の「長」に話を持って行くことをお勧めします。初めから「面分業」の姿勢をアピールするほうが事をうまく運びます。実際、最初から完全な「面分業」にて成功した医療機関も多いのです。


3)薬局の少ない地域での分業
では、既存の薬局のない地域での対処法を考えてみましょう。医薬分業を考慮中だが、近くに薬局が全くないのでとても出来ないとよく言われます。この場合も地区薬剤師会に相談してください。もし、薬剤師会側から見ても、これでは患者の理解が得られないと判断されれば、新規の薬局を作るなどで対応してくれるはずです。その場合の立地条件として医院からある程度離れた場所が適当でしょう。一説には200−500m先と言われています。私のクリニックの場合は150m先に一番近い薬局があります。遠く離れた場合でも、車で10分以内、距離で2-3 Km が許容限界です。この距離には2つの意味があります。一つにはマンツーマン分業(後述)に陥らずに、処方箋が「面分業」へと広がっていく距離だということです。二つ目は、近所の他の医療機関も処方箋を発行した際には利用しやすくなります。そして、その新規薬局はあくまでその医院の周囲の「面」(=地域)を担当するのであって、他の「面」は別の薬局に任せる姿勢が大切です。そうすることによって「かかりつけ薬局」が定着していくはずです。
4)広域病院の分業
広域病院の場合は診療地域がかなり広範囲になるので、最初から既存の薬局を主体とし、薬局のない「面」に新規薬局を作るなどで対応するのが良いと思われます。日本薬剤師会は会員のつくった門前会営薬局を、面分業の妨げになるとして自ら否定し、今後解消していく方針決定しました。更に、会営でない大型門前薬局も適正な分業を妨げるとして、法的に規制するよう厚生省に要求していますし、すでに新規にはつくられなくなってきています。


5)リベート分業の危険性
処方箋発行の意志表示をすると、多くの場合、調剤薬局チェーンの業者などが門前に薬局をつくらせてほしいと言ってきます。もちろん最近はリベートなど持ち掛けることはないと思いますが、それでもよく考えてみることが大切です。何度も言っていますように「面」に広がらない分業は「患者のための分業」とは言い難い。特定の薬局と結びつくと、患者や住民から不信感を抱かれる恐れがあります。新しいことをすると、それをなぜするのか知りたがるのが人間です。薬局が単に医院の前に出ただけのような形態だと、良いようには解釈してもらえないでしょう。
6)マンツーマン分業の欠点
特定の薬局にのみ処方箋を発行することを「マンツーマン分業」といいます。でも、医療機関が薬局を指定することは、法律的に禁じられています。従って、他の薬局に処方箋を持っていくケースが必ず出てきて、対応に苦慮します。その場合、薬剤師会の協力を取り付けてなければ、薬の備蓄不足のため患者さんに迷惑がかかり、結局は分業への理解が得られなくなります。また、薬局がなんらかの都合でお休みした場合や廃業した場合、代替薬局が無いため対応できなくなる恐れもあります。更に、患者さんの込み合う季節には、医院の混雑がそのまま薬局に持ち込まれます。面分業であれば、処方箋が分散され、薬の待ち時間の点でもメリットがあります。この点、薬の待ち時間がいつも長い広域病院では、一年中有効です。遠方の患者さんでは、FAXを利用すると、薬局に到着するまでに調剤は終わっており、大きな患者サービスとなります。