1ヶ月あまり前に電子カルテ本体が届 きました。7月1日の本格稼動を目指して現在カルテ入力訓練中です。
電子カルテについてはご興味のある方はいらっしゃると思いますが、文字入力の
大変さを考えると躊躇せざるをえない、と考えていらっしゃるかと思います。私もそこのところがとても心配でした。下手すると、入力に集中するあまり『画面ば
かり見て患者を見ず』ということになりかねない。ある病院では実際このような
ことが起きているとも伝え聞いています。
そこで、事務員をメディカルクラークに仕立て上げ、文字入力を全部やってもら
うということにして、ブラインドタッチの練習をさせてきました。しかしここに
きて考えが変わりつつあります。その理由は電子カルテ(BML社の MedicalStation)が予想以上にいろんな工夫がされ使いやすく便利にできていることがわかったからです。さらに、私にあった電子カルテに作りこむ(カスタマイズする)ことで入力のスピードアップがはかれることがわかりました。
そして使ってみて驚いたのはペンタブレットの威力です。ペンタブで画面をタッ
チして語句を選んでいくのですが、初めは語句が見つからず迷いペンになっていましたが、慣れてくるとタンタンターンと2秒間に3−4タッチできるようになります。マウス操作より数段速いと思います。たとえば、座らせて診察したあと、
ベッドに寝かせる間に「胸部:」「清」「咽頭発赤」「(+)」「鼓膜発赤:」
「(-)」の5ヶ所を一気にタッチします。腹部所見をとったあと「腹部:」「平
坦軟」「項部硬直:」「(-)」をクリックします。子供が移動している間にほぼ入力できます。もっといろいろ所見があってもそんなに変わりません。
また、診察後の病名入力では少なくとも5回も画面タッチしないといけないのですが、まれな病名でなければほんの2−3秒でできるようになりました。病名のゴム印を探してスタンプ台でインクをつけ病名欄に押すのとほとんど同じくらいの時間でできるのではないかと思います。
それと、約束処方(これはどれだけでも作れる)を多用することでさらにスピー
ドアップにつながります。現在年齢ごとに10種類ほどの処方を作ってあります。
約束処方だと融通が利かないのではと思われるかもしれませんが、組み合わせや
用量・日数の変更も簡単にできます。検査セットも作っておけば便利です。
てなわけで、事務員には受付で問診内容の入力をしてもらえば、診察室では私自身ですべて入力できるのではないかと思い始めています。
さて、電子カルテの仕組みを入力のスピ−ドアップという観点から説明させてく
ださい。下手な解説でわかりにくいところがいっぱい出てくると思います。随時ご質問いただければうれしいです。
電子カルテは主として「問診・所見記入」、「血液・尿検査」、「レントゲン検査」、「エコーなどの生体検査」、「吸入・座薬などの処置」、「注射治療」、
「経口薬処方」、「病名記載」等から構成されております。それぞれの分野別に検査名や薬品名、病名の表が作られています。下手なたとえになりますが、それぞれ分野別の『引出し』があるとお考えください。たとえば「経口薬」の引出しを開けるとそこには1万何千種類の薬品名のゴム印が入っています。そこから求める薬を探し出し、そのゴム印を取り出してカルテに版を押す。この繰り返しがイコール、カルテ作成ということかと思います。
検査など他の引出しも基本的には同じ構造です。引出しを開けることでワンクリック(ペンタブならタッチ)、薬を探し出すために検索をかける(ホクナリンなら「ほくな」を“ひらがな表”かキーボー
ドで入力して「検索」をクリック)、ゴム印をカルテに押す(=「ホクナリン」
をクリック)。これで処方欄に「ホクナリン」が記載されます。でも・・・これ
ではクリック数が多くて考えただけで疲れますよね。
そこで、引出しの手前にクイックテーブルという別の小さな箱を入れておきます
。そこによく使う薬のゴム印を集めておきます。私の場合は今のところ35種ほど入れてあります。引出しを開けクイックテーブル上のホクナリンをクイックするとそれだけで処方欄に記載されます。前よりはずいぶん楽になりますね。
でも、 処方はこれだけで終わりません。用法容量が必要ですね。 ホクナリンをクリックすると自動的に「数量・日数」ツールが現れてきます。キーボードでドット→5→エンターキー→4→エンターキーと5回たたくと「ホク
ナリン0.5、4日分」と処方欄に記載されます。と同時に自動的に「用法」のクイックテーブルが現れ、そこから「1日2回食後」を選んでクリック。以上でようや
く出来上がりです。「薬」・「用法」のクイックテーブルや「数量・日数」ツー
ルはいちいちクリックしたり、消去したりしなくても自動的に出たり消えたりしてくれます。これは便利です。
ちなみに、一番最初のやり方ではクリック数(キーボードをたたく回数も含めて
)はなんと16回。これではとてもやってられませんね。クイックテーブルを用
いる方法では半分の8回に減ります。患者が少ない夏場にはこれで十分やっていけると思います。でも・・、やはりちょっと多いですね。忙しい冬場は疲労の原因になるかもしれません。
電子カルテの続きです。前回の書き込みで、一処方にクリックが8回と書きまし
たが、これでは電子カルテが普及しませんね。実はクリック数をもっと減らす方法はあります。それは約束処方の活用です。電子カルテでは約束処方を自由にどれだけでも作ることができます。そして、同じ処方でも用量を変えて年齢別約束処方をつくっておくと便利です。投与日数は処方回数が一番多い日数にしておきます。もちろん、各処方に日数別も作ることはできますが・・。
たとえば「ホクナリン0.5、4日分、1日2回食後」をホクナリンA(2才という意味)と名づけて「セット」という引出しに入れておきます。それをワンクリック
するだけで処方欄にすべて記載されます。これですと引出しを開けるためのクリッ
クとあわせて合計2回のクリックとなります。8回が2回になったわけですね。 これでずいぶん楽になり、電子カルテのあがたみが実感できます。手書きより速
いのではないかと思います。
ところが、複数の薬をいろんな組み合わせで処方する場合、約束処方をそれぞれ作っておくと数が多くなりすぎ、目的の処方を探すのに手間取るという心配
が出てくると思います。その場合は「引き算処方」を用いると良いのだそうです(BML談)。たとえば、抗生剤、鎮咳剤、気管支拡張剤、抗ヒスタミン剤、去痰
剤、整腸剤が全部入った約束処方を年齢別で作っておき、「上気道炎A」と名づ
けて「セット」という引出しに入れておきます。これをクリックすると処方欄に上記の6つの薬が全部転記されます。そして、抗生剤と抗ヒ剤が必要“ない”場合
にはその2つをクリックしてdeleteキーで削除します。この場合はクリック4回
キー1回になりますね。(もっとも私は1剤処方が多いのでこの方法は用いていませんが・・)
この逆の「足し算処方」も可能です。上記と同じ組み合わせ処方を今度は「セッ
ト検索」という引出しに入れておきます。そこにある「上記道炎A」をクリック
すると上記の6種の薬が記載された新しいウィンドウが開きます。そこで、たと
えば抗生剤と去痰剤をクリックして選択、転送ボタンを押すと2剤が処方欄に記載されます。この場合はクリックは5回です。このやり方では、あらかじめ複数
の抗生剤を組みあわせに入れておきそのつど選択する方法も可能です。また、鎮痛剤の頓服処方などを別処方として入れておけば、さらに便利です。鎮痛剤も選
択して転送ボタンを押せば一度に2処方が転記されます。この場合は6クリック
となります。
また、投薬量を微妙に変えたり、処方日数を変更したい場合は約束処方ではかえって面倒ではないかと思われるかもしれません。しかし、思った以上に簡単にで
きます。たとえば4日分を3日分に変更する場合は処方欄にある薬名をダブルク
リックすると「数量・日数」ツールが自動で現れます。そこで「エンターキー→
3→エンターキー」で3日分に変更されます。4を消さなくても上書きされます。
1クリック3キーで変更できるということです。薬の量を0.4に変更する場合は 「ドット→4→エンターキー2回たたき」で変更できます。この場合はキーの数
が1回増えます。数字はテンキーを用いると速く入力できますのでそのブライン
ドタッチができればもっといいんですが・・。
以上、処方入力についてスピードアップの点から説明させていただきましたが、下手な解説でかえって混乱されたのではないでしょうか?
電子カルテの続きです。
先日、新聞紙上にウィンドウズXPに手書き入力の機能が加わる(今秋発売予定)との記事がありましたね。電子カルテにこの機能があると便利と思われるでしょうが、実はすでに搭載されています。レントゲン所見や発疹所見の記載に利用しています。マイクロソフトのものではなく、ワコムのものですが・・・。使用法も簡単でとても便利です。
ドローツールをクリックすると手書き画面が現れてきます。ペンタブで自由に絵や手書き文字を入力できます。赤色をタッチすると発疹を赤で描けます。また、熱が10日前にあり2日で下がり5日前からまた上がってきた、などのややこしい経過の場合に使う経過グラフも簡単に描けます。ならば、最初から紙カルテと同じ感覚ですべて手書き入力したらどうかという考えもあります。もちろん、しようと思えばできますが、文字が読みにくければカルテ開示という目的にそぐわないかもしれません。
欠点もあります。すべすべの画面に書くので、紙にボールペンで書くときのあの感触がまったくないのです。そのせいもあり、達筆は無理です。もっとも字の下手な私はどちらでもそんなに変わりませんが・・・。ゆっくり書けばそれなりに読める文字になりますし、小さい字でも書けます。ただ、もしかして1日中書いていると疲れるかもしれません。ペンタブの角度によっては文字が出ないこともあります。ウィンドウズのものはもう少し改良されているかもしれませんが・・。
とはいえドローツールの使い方はいろいろあると思います。キーボード入力する時間がない場合などメモ感覚で使うとか・・。また、診察が終わってから「別のことで質問があるんですが・・」などと大切なことを最後になって尋ねる母親がいますよね。そんな時、手書き入力で要点をサァーと記載するとか・・。それと、手書き入力の良い点は後日それを見たとき患者さんの状況がスーと思い出される(記憶を呼び覚ますのが速い)ということです。昨年の書き込みで電子カルテのこの重大な欠陥について述べましたが、それを補う方法になるかもしれないと思っています。
私のところでは7月1日から電子カルテに全面移行の予定です。現在は紙カル
テと並行でやっています。 紙カルテから電子カルテに移行する方法は3つほどあるかと思います。
一つ目 として、インストラクターの講習を受けた後(5日間ほど)、『所見ワードツール』
や『約束処方』を作りこみ、すぐに電子カルテだけで診療する方法です。私には
とてもできそうもないのですが、BMLの話では、実例があるそうです。その方は
小児科開業医で1日患者数およそ100名だそうですが、それでもちゃんとできたそうです。パソコンによほど慣れた方かもしれませんね。この方法の利点は並行で紙カルテを書くという手間がないということですね。最近辰口で開業された
泌尿器科の先生は2日間講習を受けただけで、最初から電子カルテのみで診療さ
れているとのことです。パソコンに習熟されている方は電子カルテそのものもそんなに難しくないということなのでしょうか。
2つ目は現在私のやっている方法です。今までどおり紙カルテに記載しながら、同時に電子カルテにも入力する方法です。2つを並行で行きますのでちょっと手
間ですね。最初から電子カルテを完璧にしようとすると当然行き詰まります。初めは問診だけ、それができると診察所見も加え、ついで処方、さらに、検査や病名入力へと段階を踏んでレベルアップしていきます。患者がたまってきたときには入力はあきらめ紙カルテだけにします。ひまなときは完全な電子カルテに仕上げるように努力します。
ゴム印がどこにあるか覚えているつもりでも慣れるまでは、手が自由に動かず迷
いペンになります。パソコンをにらんでいると意外と時間の感覚が麻痺し、患者さんがどっとたまっている事があります。数回ですが患者さんから「遅い!」と
のクレームがありました。こんなときは電子カルテ入力をきっぱりとあきらめたほうが良いと思います。看護婦さんからストップをかけてもらうといいかもしれませんね。実際入力してみるといろんな問題が出てきますので、一つ一つ解決していくとカルテはさらに使いやすいものに進化していきます。その作業は夕食後
などににゆっくり考えながらやっています。
3つ目の方法は、診察時は紙カルテだけ記載して、診療終了後に電子カルテに入力する方法です。これですとゆっくり入力練習ができますし、電子カルテのせいで患者さんがたまることもありません。ただ、夜の自由時間がつぶれるかもしれませんね。問診入力を事務の方にしてもらう方針でしたら、その部分は
診療時間内に入力練習してもらうことになります。会計の練習(簡単ですが)など
はお昼休みなどにしてもらえばいいかなぁ。
並行入力の期間は2ヵ月と10日ほどとりました。上達ののろい私にはちょうど 良かったと思いますが、人によっては長すぎると感じるかもしれません。練習は長いほど当然上達しますが、その分手間のかかる並行入力期間が長くなります。
その分診療エネルギーが削がれますね。この2ヶ月間、診察の合間にメールをよむという事もほとんどなくなりました。電子カルテ入力になんとか見込みが立った今は、早く楽になりたいという気分です。
吉田です。電子カルテの続きです。
昨年から「カルテ入力」のスピードについて長々と述べてきました。しかし、実際に使ってみて、「カルテ入力」には少し自信がもてたせいもあるのかもしれませんが、別の欠点が見えてきました。
それは「カルテの視認性」の悪さです。どういうことかといいますと、電子カルテでは1患者のカルテ全体をさっと見渡すことができないということなのです。もちろん「過去カルテ欄」をスクロールすると見ることはできるのですが、診察4−5回分だけです。それより過去のものは「来院一覧」の画面から目的の日付をクリックしてたどる必要があります。これがちょっと面倒なのです。大切な病歴を見逃す可能性があります。
また、「処方・処置欄」も病歴を知る上で重要ですが、「過去カルテ欄」と連動してスクロールすればよいのにそれができないのです。この点も不便ですね。病歴を簡単に見られないということは、極端な言い方をしますと、カルテが紛失したようなものです。まっさらな2号用紙だけでは、母親との会話は頓珍漢なものになってしまいます。ま、そこまでひどくないにしても、それに近い感覚を覚えることが時々あります。
紙カルテの良さは、それを一瞥しただけでカルテの厚みといたみ具合がわかりますし(これもひとつの情報です)、表紙に書かれた病名とぱらぱらめくりだけで病歴の概要がつかめるということです。電子カルテにはこの良さはありませんね。もっとも今は慣れていないだけで使いこなせば克服できることかもしれませんが・・・。対策のひとつとして「患者メモ」欄を多用していこうかと思っています。このウィンドウはこれでもかこれでもかとしつこいくらいに自動表示されます。特別な病歴や禁忌薬情報などを載せておくと、「視認性」の悪さを少しでも補えるかもしれません。
電子カルテの機種を選定されるときは価格はもちろん大切ですが、毎日毎日使うものですから使い勝手が良いかということが最重要だと認識しました。それには@文字入力が簡単にできるA視認性が良いの2つが基本のように思います。昨年からBML(メディカルステーション)と三洋メディコム(ドクターズパートナー)の電子カルテを比較検討してきましたが、私の印象では前者は文字入力の点で、後者は視認性の点で優れているように思いました。(続く)
吉田均です。「電子カルテ」の続きです。
電子カルテ導入時に大きなトラブルはなかったと書きましたが。小さなものはいくつかありました。
一つ目は診察途中まで別の患者のカルテであることに気づかず、文字入力していたことです。これは「診療待ち患者一覧」(BML製は「患者ステータス」といいます)に患者名が並んでいるのですが隣の患者のカルテを開いてしまったためです。言い訳になりますが、ペンタブレットはマウスよりもミスタッチをしやすい(?)ように思います。それとも視力の低下が原因でしょうか?
同じようなことが薬でもありました。ゾビラックス顆粒をペンタッチしたつもりが、その下にあったアタラックスPをタッチしてしまい、そのまま処方箋を発行、薬剤師に指摘されてようやく気づきました。電子カルテは今までは考えられなかったようなミスを誘発するかもしれません。電子化=安全ということではないようですね。
3つ目のミスは受付でありました。しかし原因は私にあります。
「○○さん、お会計お願いしま〜す」「あの〜、まだ診察終わってないんですが・・」「え、えぇー」受付に恥をかかせてしまいました。
紙カルテ方式ではカルテを受付、診察室、処置室、受付と順次回すことによって診察を進めますが、電子カルテではペーパーレスなので診療待ち患者情報(患者ステータス)のウィンドウでこのコントロールを行います。診察待ちの患者さんはピンク色、診察中はブルー、会計待ちはイエロー、診察終了はブラック(or名前が消える)と色分けされ、患者さんの状態が一目でわかるようになっています。
便利にできているのですが、欠点があります。それは、受付で問診入力すると診察したと解釈され「会計待ち」と同じイエローになってしまいます。この色に関する工夫は、他のユーザーからも要望が出ているが、今のところできないそうです(MBL談)。これではとても困るので患者ステータスに「診療待ち」というチェック欄をつくり、診察が終わると私がチェックをはずすことにしました。ところが、患者さんを検査に回してカルテを閉じたあとに、私がこのチェックを無意識にはずしてしまったのです。患者さんは検査が終わり待合室で結果を待っていたら、上記のトラブルが起きたというわけです。
以上3つのミスは単に導入時の不慣れが原因だったかもしれません。しかし、薬のミスは1回でも怖いので使いこなせるようになるまではよほど用心したほうが良いということのようですね。